株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

信託(会計、税務)

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1.信託における会計(投資サイド)

 信託における投資家サイドの会計処理については、実務対応報告23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(企業会計基準委員会、平成19年8月2日)において整理されています。大きく分類すると、信託財産が金銭の信託か金銭以外の信託か、又、信託設定時の当初受益権者が単数か複数かによって会計処理が異なります。

 簡易的にまとめると、以下のようになります。

信託の種類 金銭の信託 金銭以外の信託
当初受益権者 単数 複数(合同運用) 単数 複数
信託設定時 金銭の信託であることを示す適切な科目に振替(通常は、「金銭の信託」勘定を利用) 有価証券又は合同運用の金銭の信託であることを示す適切な科目に振替 信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理。 その委託者兼当初受益者がその信託について支配することも重要な影響を及ぼすこともない場合には、原則として、移転損益を認識。なお、移転損益を認識することが適当であると考えられる場合でも。受益者が各委託者兼当初受益者からの財産に対応する経済的効果を実質的に反映し、かつ、売却後の受益者が多数とならない場合には、受益者が信託財産を直接保有するものとみて会計処理。
売却時 特に規定なし(受益権を売却する想定なし) 有価証券としてまたは有価証券に準じて会計処理。ただし、MMFのような預金と同様の性格を有するものは取得原価として処理。 信託財産を直接保有していたものとして、それぞれの消滅の認識基準に従って会計処理。 受益権が各委託者兼当初受益者からの財産に対応する経済的効果を実質的に反映し、かつ、売却後の受益者が多数とならない場合には、受益者が信託財産を直接保有するものとみて消滅の認識又は売却処理の要否を判断。それ以外は、有価証券の売却として処理。
期末時 保有目的(運用目的、満期保有目的、その他)に応じて、会計処理。運用目的の場合、信託財産である金融商品について、付すべき評価額の合計を貸借対照表価額とする。 同上 信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理(表示及び注記を含む。)。このため重要性がない場合を除き、総額法による処理が求められる。 受益権が各委託者兼当初受益者からの財産に対応する経済的効果を実質的に反映し、かつ、売却後の受益者が多数とならない場合には、信託財産を直接保有するものとして総額法。それ以外は、有価証券として処理。
備考 特定金銭信託、特定金外信託等の場合は、運用目的として推定。 投資信託など。 不動産の流動化、金銭債権の流動化等に利用する信託スキームなど。 事業信託は除く。

 

2.信託における会計(受益者の連結問題)

 信託は、基本的に「会社に準ずる事業体」には該当するとは言えません。しかし、受益者が複数である金銭の信託の中には、連結財務諸表上、子会社および関連会社として、会社に準ずる事業体と同様の取扱いをすることが適切な会計処理となる場合があると考えられます。具体的に以下のような取扱いとなります(実務対応報告23号Q2A3)。

 

1 すべての受益者の一致によって受益者の意思決定がされる信託(新信託法第105条第1 項)においては、自己以外のすべての受益者が緊密な者(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、自己の意思と同一の内容の意思決定を行うと認められる者)又は同意している者(自己の意思と同一の内容の意思決定を行うことに同意していると認められる者)であり、かつ、連結会計基準第7 項(2)の②から⑤までのいずれかの要件に該当する受益者
2 信託行為に受益者集会における多数決による旨の定めがある信託(新信託法第105 条第2 項)においては、連結会計基準第7 項で示す「他の企業の議決権」を、「信託における受益者の議決権」と読み替えて、連結会計基準第7 項の企業に該当することとなる受益者
3 信託行為に別段の定めがあり、その定めるところによって受益者の意思決定が行われる信託(新信託法第105 条第1 項ただし書き)では、その定めにより受益者の意思決定を行うことができる11こととなる受益者(なお、自己だけでは受益者の意思決定を行うことができないが、緊密な者又は同意している者とを合わせれば受益者の意思決定を行うことができることとなる場合には、連結会計基準第7 項(2)の②から⑤までのいずれかの要件に該当する受益者)


 また、企業会計基準第16 号「持分法に関する会計基準」第5-2 項で示す「他の企業の議決権」を、「信託における受益者の議決権」と読み替えて、持分法会計基準第5-2 項の企業に該当することとなる受益者は、当該信託を関連会社として取り扱うこととなります。

 

 なお、当該信託の受益権が、売買目的であって、金融商品会計基準や特別の法令の定めに適切に従った結果、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損益として処理することとなる場合には、事業投資である子会社や関連会社への投資には該当しません。また、子会社又は関連会社に該当することとなった金銭の信託において、その構成物である株式等が売買目的であって、金融商品会計基準や特別の法令の定めに適切に従った結果、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損益として処理することとなるときには、当該株式等についても同様に、子会社や関連会社への投資には該当しません。

3.信託における会計(信託自体(受託者会計))

 信託における受託者は、信託事務に関する計算ならびに信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の状況を明らかにするため、信託計算規則で定めるところにより、信託財産に係る帳簿その他の書類等を作成しなければなりません(信託法37条1項)。また、受託者は、毎年1回、一定の時期に、信託計算規則で定めるところにより、貸借対照表、損益計算書その他の財産状況開示資料を作成し、原則としてその内容について受益者(もしくは信託管理人)に報告しなければなりません(信託法37条2項、3項、信託計算規則4条1項)。

 信託の会計処理自体は、「一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする(信託法13条)」とされています(実務対応報告23号Q8A)。これまでと同様に、明らかに不合理であると認められる場合を除き、信託契約の信託行為の定め等に基づいて計算されることも認められながらも、①新信託法216条に基づく限定責任信託、②受益者が多数となる信託については、利害調整機能を高めるために、株式会社の会計等に準じて行うことが考えられます。また、ある信託に関して法令等により、作成すべき財務諸表の用語、様式及び作成方法についての定めが設けられる場合には、当該法令等の定めによることとなります(実務対応報告23号脚注21)。例えば、特定信託財産の場合には「特定目的信託財産の計算に関する規則」又は「投資信託財産の計算に関する規則」によることとなります(同)。

4.信託における税務

 信託における税制の枠組みは、法人税法12条の本文に定める信託と、同上但書に定める信託により整理されています。具体的に、但書に定める信託として、「集団投資信託」「退職年金等信託」「特定公益等信託」「法人課税信託」の5つを例外規定とし、それ以外の信託をすべて同じ規定で定めています。一般的に本文に定められる信託を「本文信託」と呼んだり、「受益者課税信託」と呼んだりしています。同様の規定は所得税にもあります。信託税制については、その規定が所得税法、法人税法、相続税法、贈与税法、消費税法と多岐にわたるため、一般概念のみを本シリーズでは解説することとします。

 

 まず信託税制の基本となる法人税法12条では、「信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。」と定めています。つまり、信託に関する信託財産やそこから発生する損益については受益者がすべて課税対象となる旨が定められています。

 信託の場合、信託財産の所有権は受託者となります。法律的に信託財産を受託者が所有するため、原則的な課税対象は受託者となります。しかし、信託における経済的効果を享受するのは受益者であり、受託者は信託財産からの果実を獲得するわけではありません。このため、租税法的に考えれば受託者ではなく、受益者に課税すべきとなります。また、他の投資ビークルと比較しても、信託のビークルを活用した場合には、そのビークルに課税がなされることは公平性が保てません。このため、法人税法12条において、受益者への課税とする「みなし規定」を設けることで解決を図っています。

 この原則的な本文信託の課税制度は、法人税法がそのまま適用されるため、原則通り発生主義ベースによる課税が行われます。このため、受益者に対して実際に信託財産の分配が行われたかどうかに関係なく、パススルー税制と同様の効果があります。

 

 ただし、このような原則的な課税方法を採用した場合、例えば合同運用信託など受益者が多数に上る場合、信託財産の状況を各受益者がその期末時に把握することは難しく、信託財産に関する発生ベースの会計処理をすることはほぼ不可能な状態と考えられます。こうしたことから、合同運用信託や証券投資信託等の集団投資信託については信託収益が受益者に分配された時点で課税することとしています。 また、退職年金等信託や特定公益等信託についても同様の税制が採用されています。 

 また、このような分配時課税を認めた場合、課税回避を目的として収益の分配が行わない形で信託が活用される恐れがあります。このため、受託者で利益が留保される可能性のある特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託、受益者等が存在しない目的信託などは「法人課税信託」として受託者に対して課税が行われます。なお、集団投資信託に該当しない投資信託や特定目的信託は、この法人課税信託として分類されるものの、収益分配額の損金算入規定が定められており、ペイスルー税制が採用されています。

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