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2013/09/04 市場退出、企業自ら選択 経営陣による買収

今日は、少し古いですが先週金曜日の8月30日、日経朝刊13面のMBOの記事から。

 

【記事要約】


経営トップや投資ファンドが企業の株式を買い取って非上場にするMBO(経営陣が参加する買収)が世界で相次いでいる。

・非上場の方が改革を進めやすいといった理由が多い。

・東京証券取引所に上場していたメガネ販売最大手のメガネトップが23日に上場廃止となった。業績は好調だが、パソコン用メガネなどが好調なジェイアイエヌに猛追されている。そこで、今年3月末に666店の直営店を1000〜1100店舗へと一気に増加予定。積極出店による業績悪化リスクを懸念し、非上場化を選んだ。

・米国・IT大手のデルも計画。株主総会の賛同が得られるかは流動的ではあるが、「非上場の方が事業構造をパソコンから法人向けサーバーなどに短期的に広げやすい」(IT専門の投資ファンド幹部)。

・トムソン・ロイターによれば、今年の日本のMBOの額はすでに昨年1年間を上回った。

・一橋大学の加賀谷哲之准教授によれば、米・英・日の投資家が株式を保有する平均期間はせいぜい1年か、1年未満という。

・目先の成果を求められる企業では機動的な投資がしにくいと読み取る向きもある。

・株式上場は企業経営の透明性を高め、利点が多い。しかし、短期の業績だけに注目する投資家が増えすぎるのは問題含みだ。

・「短期主義に歯止めをかけなければ株式市場が疲弊し、衰えていく」との危機感は一致している。

<日本経済新聞 2013年8月30日 朝刊13面より


 

 「MBO」という言葉も一般的になってきたのでご存知の方も多いかと思いますが、Management Buyoutの略です。日本語訳的には「経営陣による買収」という感じでしょうか。

 一昔前のMBOは、不採算事業を売却して切り離す(Sell-Out)するときに、その事業部門の部門担当の役員(経営陣)などが買い取る方法として利用されることが多かったように思われます。

 しかし、株式市場の規制強化(四半期開示、J-SOXの導入、監査法人による監査強化など)によって上場コストが高まる一方で、株式市場は低迷し上場メリットが低くなっていく中で、銀行等によるブリッジ・ローン等の確立、エクイティ・ファンドからの調達の柔軟性が増したことなど、金融スキームの確立により、企業全体を非上場化してしまうMBOが増加してきました。

 

 今日は企業分析と言うよりもMBOを中心にマーケット全体について考えてみようと思います。 IKP独自でデータベース化している「TOBデータベース」を参考にしつつ考えてみます。

 

◆日本のMBOの状況

 

 

 TOBデータベースによると、平成24年9月〜平成25年8月までのMBO件数は以下のとおりです。

 

平成24年9月平成24年10月平成24年11月平成24年12月平成25年1月平成25年2月

 0件

0件   1件 1件  0件 2件 
平成25年3月平成25年4月平成25年5月平成25年6月平成25年7月平成25年8月
0件 2件 0件 1件 1件 3件

 

 これをみると年間合計で11件ですので、平均で1件/月ぐらいの感じでMBOが実施されていることになります。これを「多い」とするか「少ない」とするかは読者の皆様によって感覚が違うとは思いますが、筆者個人としては多いと思います。

 

 この中で、買付総額が100億円を超える案件は、以下の4つです。

 

●平成25年4月 1stホールディングス 約281億円

●平成25年4月 メガネトップ 約466億円

●平成25年6月 シンプレクス・ホールディングス  約256億円

●平成25年8月 タイヨー 約156億円

 

 最も大規模だったのがメガネトップの約466億円ですね。メガネトップのファイナンス状況をみると次の通りです。

 

ファイナンス合計 (a) + (b) + (c) + (d) 48,035,576千円
保有預金等 (a) 金融機関借入金等 (b) 48,035,576千円
金融機関以外 (c) その他の資金調達方法 (d)

 

〔備 考〕

【金融機関借入金等】

三菱東京UFJ銀行:合計28,823,576千円(ブリッジローンA 2,658,576千円、ブリッジローンB 1,200,000千円、タームローンA 10,740,000千円、タームローンB14,235,000千円)

三井住友銀行:合計9,606,000千円(ブリッジローンA 882,000千円、ブリッジローンB 400,000千円、タームローンA 3,579,000千円、タームローンB 4,745,000千円)

静岡銀行:合計9,606,000千円(ブリッジローンA 882,000千円、ブリッジローンB 400,000千円、タームローンA 3,579,000千円、タームローンB 4,745,000千円)


 メガネトップのファイナンスは全額金融機関からの借入で、ブリッジ・ローンA,Bの2本とターム・ローンA,Bの2本で調達しています。銀行は、三菱東京UFJ、三井住友、静岡銀行の3行によるシンジケーションで対応しているようです。

 なお、「ブリッジ・ローン」とは、その名の通り「橋渡しローン」で、次の調達までの短期的なローンのことです。一方、「ターム・ローン」は、一般的な証書貸付のことで、数年間にわたる貸付です。

 上記のメガネトップのケースだと、ブリッジ・ローンAの到来期限は「2013年6月5日又は冨澤昌三氏及び冨澤万里氏による公開買付者(※筆者注:資産管理会社である兜y澤のこと)への出資に係る払込日のいずれか早い方の日」であり、ブリッジ・ローンBは「2013年10月末日又は本全部取得手続完了日(かかる行為に関連する少数株主による株式買取請求権又は取得価格決定の申立てに係る裁判上または裁判外の一切の手続き、並びに会社法第234条)の規定に基づく端数株式の売却手続きその他少数株主に対する金銭の支払を除きます。)のいずれか早い方の日」となっています。

 ブリッジ・ローンはこのように基本的に短い期間になるので、基本的に他のファイナンスが考えられているのが一般的です。今回は、手前のブリッジローンAは44億円で、スクイーズアウト後のローンBで20億円となっていますが、これらは純粋に自己資金で出すようです。通常は、エクイティ・ファンドやメザニン・ファンドから調達したりするものですが、さすがメガネトップの創業家、、というところでしょうか。

 

 なお、それ以外の3つのMBOをみると、

 

●1stホールディングス オリックス系ファンドが関与

●シンプレクス・ホールディングス 米系のカーライルが関与

●タイヨー 三井住友銀行から借入ですべて調達

 

となっていますね。

◆MBOの場合のプレミアム

 年間件数が11件しかないので、統計的な有意を得るのは難しいところですが、プレミアムについてみてみようと思います。

 なお、「プレミアム」とは株式市場のマーケット価格より高い価格で買った場合のその部分で、通常はプレミアムが付されることが通常です。プレミアムをつけなければ株主は公開買付者に売る理由はないので(売りたければマーケットで売ればいいから)、「ディスカウント」ということはありません。TOBでディスカウントされるときは、大株主から会社が自己株式として取得するときに、TOB規制がかかるためTOBを実施しているようなケースのときがほとんどです。

 

 

 さて、この1年間のプレミアムの最高と最低は以下のとおりです。なお、ここでのプレミアムはMBO発表前日の株価比です。

 

<件数11件:平成24年9月〜平成25年8月> 

【プレミアム最高】平成24年12月 野田スクリーン 61.1%

【プレミアム最低】平成24年11月 セレブリックス 4.0%(なお、直近決算で債務超過状態)

【プレミアム平均】32.8%

【プレミアム中央値】33.0%

 

 繰り返しになりますが、11件しかないので平均値や中央値に統計的な有意性は見いだせないと思いますので参考程度です。筆者個人的な感覚ですが、通常のTOBではだいたい25%〜35%程度のプレミアムで、スクイーズアウト(完全子会社やMBOなど)のような場合には、それに10%〜20%が上乗せされるような感じでしょうか。

 

 

 上記のプレミアム最低であるセレブリックスは、カッコ書きにあるとおり直近決算で債務超過状態にあり、JASDAQの整理銘柄になっていました。「公開買付報告書でも民事再生申請も視野に検討」とあるぐらいなので、例外的案件と言えるでしょう。

 このセレブリックスを除いて最も最低のプレミアムだったのが、メガネトップです。プレミアム率6.5%で、当時も「MBOが成立するのか?」と一部懐疑的な意見を持っていた方もいらっしゃいました。

 プレミアムが低くなった理由は定かではありませんが、上記でみたとおり、自己資金での純粋MBOだったからプレミアム率が低かったのだ、、という意見もありますが、個人的にはMBOの実施時期に株価が高まったのが一番の原因なのではないかと思います。

 プレミアムの対比推移をみると次のとおりです。

 

【メガネトップのプレミアム状況】

対前日取引日終値対過去1カ月終値単純平均対過去3カ月終値単純平均対過去6カ月終値単純平均
6.5% 10.8% 21.4%

31.2%

 

 これをみると、6カ月平均は30%超えていたのに対し、直近では6.5%なので株価が上昇してきたのがわかります。

 事実、アベノミクス効果で株価上昇期であり、これが最も大きな要因かと言えます。合わせて、通常は株価上昇に合わせて買収予算も高めていくのですが、純粋MBOでそこまでファイナンスができずに、当初予定していた金額で実行したのかもしれません。

 

 なお、メガネトップのこの辺りの話題については、以前のBizBlogでも取り上げていますね。

 

2013/05/22 広がるSPA 眼鏡・自転車 業種に厚み

【リソース】IKP-BizBlog

◆上場維持と非上場化の考察

 さて、少しファイナンスの内容を絡めて考察してみましたが、ここで上場することのメリット・デメリットについて、ありきたりな議論ですが再考してみようと思います。

 

 上場のメリットはいろいろと考えられますが、東京証券取引所の「新規上場ガイドブック」には3つのメリットが掲げられています。

 

(1)資金調達の円滑化・多様化

(2)企業の社会的信用力と知名度の向上

(3)社内管理体制の充実と従業員の士気の向上

 

 それぞれの論点について簡単にですが確認してみたいと思います。

 

(1)資金調達の円滑化・多様化

 上記の東証の新規上場ガイドブックでは、次のように記載されています。

 

「上場会社は、取引所市場における高い流動性を背景に発行市場において公募による時価発行増資、新株予約権・新株予約権付社債の発行等、直接金融の道が開かれ、資金調達能力が増大することにより財務体質の改善・充実を図ることができます

【引用】新規上場ガイドブック2013 マザーズ編 p3 太字・下線は筆者付記。

 

 上場することの最大のメリットはこれです。

 どちらかというと、上場するこで直接金融の道が開かれる、、というより、上場することを前提として直接金融の道が開かれる、、、という感じでしょうか。すなわち、ベンチャー企業がVCファンドやエクイティ・ファンドから出資を受け入れられるのは、上場することでVCがその後に投資資金を回収しやすくなる、という前提がある程度必要なわけです。

 最近では、セカンダリー市場の発達や事業会社によるM&Aの活発化によって、上場を出口戦略としないことも想定できなくはないですが、

「上場」という道がない前提での出資はやはり難しいと思います(むろん、ケースバイケースでしょうが)。

 

 一方で、違う言い方をすれば、日銭はすでに稼げる状態で、エクイティではなくローンで調達可能なビジネスモデルとなっているような場合であれば、わざわざエクイティにこだわる必要はなく、そうであれば、結果として上場する理由もない、、と言えます。

 

 また、(今後は金利が高まりそうではありますが、)資金余剰で低金利状態の日本では、むしろローンの方が調達コストの安い合理的な調達方法になる可能性も十分ありますね。

 

 

 

 そうなると、上場していることによる開示コストや投資家からの短期的利益の要求といったデメリットの方が強くなるケースが高いかと思います。特に、四半期決算が入って、タイムリーに業績が開示され、「前期比●●%増」や「営業減益××%」、「業績下方修正」といったタイトルが年に何回も飛び交う状況は、長期的な視点で経営を行いたいと思う経営者にとっては気持ちがいいものではないでしょうね。経営環境が急速に変化していく現代社会において、トライ&エラーは必ず起きるでしょうが、常に成功しか求められないような状況は厳しいと言えます。たとえ、事業計画通りの営業利益だったとしても前期より低ければ「営業減益」と書かれ、そもそも事業計画で減益計画を出すようならば株価はすぐに下落反応を起こし、本当は中長期的には有意義な減益であっても、その株価下落をもって投資家はその経営判断を許さない結果を示してしまうのです。

 

(2)企業の社会的信用力と知名度の向上

 

 東証の新規上場ガイドブックでは、次のように記載されています。

 

「上場会社になることによって社会的に認知され、また将来性のある企業というステイタスが得られ、取引先・金融機関等の信用力が高くなります。また、株式市況欄をはじめとする新聞や報道等の機会が増えることにより、会社の知名度が向上するとともに、優秀な人材を獲得しやすくなることが期待できます」

【引用】新規上場ガイドブック2013 マザーズ編 p3 太字・下線は筆者付記。

 

 上場すると報道をはじめ、世間の注目を集めることができますから、取引関係で優位に立てたり、優秀な人材を確保しやすかったりすると思います。

 ただ、すでに知名度のある企業の場合には、最近の労働市場においても非上場企業やベンチャーであっても魅力的な会社であれば就職したいと思う方も増えているようですから、人材確保のメリットはそこまであるわけではないかなと思います。特に、MBOしたTSUTAYA経営のCCCやアパレルのワールド、上記のメガネトップなどtoCビジネスで知名度も浸透しているようなケースでは、上記のようなメリットが上場しているデメリットに勝ることはないだろうと思います。

 また、良いも悪いも景気低迷が長らく続いたため、取引における与信判断のハードルは低くなっているため、上場・非上場でそこまで取引関係に差が出るとも思えないのが実態ではないでしょうか。

 

(3)社内管理体制の充実と従業員の士気の向上

 東証の新規上場ガイドブックでは、3つ目に次のように記載されています。

 

「企業情報の開示を行うこととなり、投資者をはじめとした第三者のチェックを受けることから、個人的な経営から脱却し、組織的な企業運営が構築され、会社の内部管理体制の充実が図られます。また、パブリックカンパニーとなることにより、役員・従業員のモチベーションが向上することにもなります。」

 

 「企業公共論」や「企業市民論」といった企業の社会的公共性について考えた場合、企業情報が誰でも入手できる程度にオープンされ、その結果、社会全体からチェックを受けている状況は、非常に意義のあることだと思います。当然、その結果として、コーポレート・ガバナンスが強化され、企業の社会的に有意義な存在を続ける可能性があります。

 もちろん、そこで企業を統治する役員やそこで働く従業員もまたモチベーションとその責任感を感じることができるのではないかと思います。

 

 

 

 

 ただ、それでも(1)で述べたような上場していることのデメリットに勝るほどのメリットにはならないかと思います。

 

 当たり前のことではありますが、上場と非上場のそれぞれのメリット・デメリットを比較して有利な状況を選択することが経営者としてあるべき姿であり、上場デメリットが強まっていけば、、そして、非上場化する環境とツール(低金利でファイナンスできる、金融スキームが確立されている)が整っていれば、今後もMBOは増えていくのではないかと思います。株主は会社において重要な利害関係者(ステークホルダー)であることに変わりはありませんが、ステークホルダーは株主だけでなく、従業員や地域住民、取引先など様々な利害をもった関係者が絡み合っているので、適切な・最適な状態で会社が存在していなければなりません。株主が短期的な利益追求を行う経営のみを求める状況であるならば、そこから脱してしまう(すなわち非上場化してしまう)ことも合理的と言えるでしょうか。

 もちろん、企業の公共性を考えれば、上場している会社の情報開示による社会的ガバナンスは非常に有効に働くもので、非上場化してしまうことでそこがブラックボックスになってしまうデメリットはあるわけです。

 

 今後もこの問題について考えていきたいですね。

以  上

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