株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

複合金融商品と自己株式

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(平成23年5月16日現在)

8.複合金融商品における会計処理

 デリバティブ以外の金融商品の発行者は、当該金融商品が負債部分と資本部分の両方を含んでいるかどうかを判定するために、当該金融商品の契約条件を検討しなければなりません。そのような構成部分(component)は、IAS第32号の規定にしたがって、金融負債、金融資産又は資本性金融商品として別々に分類しなければなりません(IAS32.28)。つまり、企業は、金融商品の構成部分のうち(a)企業の金融負債を創出する部分と、(b)当該金融商品の保有者にそれを企業の資本性金融商品に転換する権利を与える部分とを区分して認識するということです(IAS32.AG31)。なお、当該複合金融商品の基準は発行者に対して設定されているものであり、保有者側は適用しません(IFRS32.AG30)。上記のように、資本部分と負債部分を両方とも含んでいるものを複合金融商品(compound financial instruments)といいます。

  

 複合金融商品の当初認識における帳簿価額の資本部分と負債部分との配分は、当該金融商品全体としての公正価値から負債部分について独立に算定された金額を控除した後の残額が資本部分に割り当てられることで算定されます。複合金融商品に組み込まれているデリバティブ要素で、資本部分以外のデリバティブは、負債部分に含めて計算します。当初認識時に負債部分と資本部分とに配分された帳簿価額の合計は、この金融商品全体としての帳簿価額に常に一致します。金融商品の構成部分の当初認識によって利得又は損失が発生することはありません(IAS32.31)。

 

 [複合金融商品の場合の処理] 区分処理

  • 負債部分と資本部分の両方を含んでいるかどうかを判定するため金融商品の契約条件を検討
  • 負債部分と資本部分があれば、IAS第32号の規定にしたがって金融負債と資本性金融商品に区分処理すること。
  • 複合金融商品全体の公正価値から負債部分の公正価値を差し引いて、資本部分の帳簿価額を求める。
  • 資本部分とならない組込デリバティブは負債部分に含めて処理する。

 

 

(A) 具体例による検討 転換社債


 保有者が企業の固定数の普通株式に転換可能な転換型社債を発行している場合を考えます。このような固定数の普通株式に転換可能な転換型社債は複合金融商品となります。このような金融商品は次の2つの部分で構成されています。

  • 金利と元本を支払うという現金又はその他の金融資産を引き渡す契約上の取決め ⇒ 金融負債
  • 一定の期間に、それを企業の固定数の普通株式に転換する権利を保有者に付与するコ―ル・オプション ⇒ 資本性金融商品

 

 

(i) 当初認識時   

<金融負債部分>

 予定された利息と元本の支払を行う発行者の義務は、その金融商品が転換されない限り存続する金融負債となります。当初認識時には、負債部分を公正価値で測定しますが、その公正価値は契約上定められた将来の一連のキャッシュ・フローの現在価値とします。その際の割引率は、その時点での信用状態が同程度で、ほぼ同じキャッシュ・フローを提供し、期間が同じであるが転換オプションのない金融商品に対して市場が適用する利率を用います。

 

<資本部分>

 転換社債における資本性金融商品は、負債を発行者の資本に転換する組込オプションです。このオプションの公正価値は、時間的価値と本源的価値(もしあれば)から構成されます。なお、オプションは、アウト・オブ・ザ・マネーであったとしても(時間的価値があるから)当初認識時に公正価値が認識されることになります。

 

 資本性金融商品は、企業のすべての負債を控除後の資産に対する残余持分を証する金融商品です。したがって、複合金融商品の当初の帳簿価額を資本部分と負債部分とに配分する際には、資本部分には、当該金融商品全体としての公正価値から負債部分について独立に算定された金額を控除した後の残額が割り当てられます。もし、資本部分(株式転換権など)以外の複合金融商品に組み込まれているデリバティブ要素がある場合には、当該デリバティブの価値は、負債部分に含めます(IAS32.31)。

 上記方法によれば、普通株式に転換可能な社債の発行体は、金融負債の帳簿価額を、関連した資本部分をもたない類似の負債(組み込まれている非資本性のデリバティブ要素を含む)の公正価値を測定することによって算定します。当該金融商品を普通株式に転換するオプションによって表される資本性金融商品の帳簿価額は、金融負債の帳簿価額をその複合金融商品全体から控除することにより算定します(IAS32.32)

 

(ii) 転換時

 転換証券を満期時に転換した時には、企業は負債部分の認識の中止を行い、それを資本項目として認識します。当初の資本部分は、資本の中のある科目から別の科目に振り替えられる場合はありますが、そのまま資本項目として処理されます。満期時の転換では利得又は損失は生じません(IAS32.AG32)。

 

(iii) 期限前償還

 企業が転換証券を当初の転換権が変化していない早期償還又は買戻しにより満期前に消滅させた場合には、支払った対価と買戻し又は償還に係る取引費用を、取引日現在で当該金融商品の負債部分と資本部分に配分します。支払った対価と取引費用の個々の構成部分への配分は、その転換証券が発行された時に企業が受け取った発行収入の各部分への当初の配分と首尾一貫したものとします(IAS32.AG33)。いったん対価の配分が行われた後は、結果として生じる利得又は損失は、関連する構成部分に適用される会計原則に従って、次のように処理されます(IAS32.AG34)。

 

 [負債部分と資本部分への配分]

  • 負債部分に関連した利得又は損失の金額は、純損益に認識される。
  • 資本部分に関連した対価の金額は、資本に認識される。

 

(iv)  条件の変更

 企業は、早期転換を促すように転換証券の条件を変更することがあります。それは例えば、特定の日よりも前に転換した場合には、転換比率を有利にしたり、追加的な対価を払ったりするといった手段を用いて行われます。条件変更時における、保有者が当該証券の転換にて受け取る対価の公正価値と、当初の条件下で保有者が受け取ったであろう対価の公正価値との差額は、純損益に損失として認識されます(IAS32.AG35)。

  なお、転換可能金融商品の負債部分と資本部分への分類は、その転換権行使の可能性が変化しても修正されることはありません。転換権の行使がある保有者にとって経済的に有利となった場合であっても同じです。保有者は、予想されるような方法で常に行動するとは限らないからです。企業が将来の支払を行う義務は、それが当該金融商品の転換、満期償還又は他の取引によって消滅するまで残ります(IAS32.30)。

 

9.自己株式

 企業が自らの資本性金融商品を買い戻す場合には、当該金融商品(「自己株式」)は、買戻しの理由にかかわらず、資本から控除しなければなりません。企業自身の資本性金融商品の購入、売却、発行又は消却に関して利得又は損失を認識することは認められません。こうした自己株式は、企業によって又は連結グループの他の構成員によって、取得され保有されることがあります。支払われたか又は受け取った対価は、資本に直接認識します(IAS32.33)。

 ただし、企業が自らの持分を他者に代わって保有している場合、例えば、金融機関が顧客のために自らの持分を保有している場合には、代理人関係が存在し、その結果、それらの保有は企業の財政状態計算書には含めないで会計処理します(IAS32.AG36)。

 なお、保有している自己株式の金額は、IAS第1号「財務諸表の表示」に従って、財政状態計算書又は注記に区分して開示します。企業は、関連当事者から自らの資本性金融商品を買い戻した場合には、 IAS第24号「関連当事者についての開示」に従って開示を行います(IAS32.34)。

 

  

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