株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

シリーズ<8> 自己査定②-債務者区分の決定

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1.はじめに

 シリーズ8では、シリーズ7に引き続き、自己査定の債務者区分の決定方法について解説していきます。本シリーズでは、判定の際の各ポイントについて解説します。

2.業況はどうか(収益性の判断)

 企業が存続し、借入金の返済を行うためには、十分な収益があがっている必要があります。この収益性の判断を行う場合、決算が各段階損益で黒字になっているかどうかでチェックします。正常な会社であれば、黒字を維持しているのが通常です。

 ただ、赤字だからといってすぐに要注意先以下になるわけではありません。次の場合には、決算が赤字であっても、正常先となる可能性があります。

(1)創業赤字で当初事業計画と大幅な乖離がない


 創業時は、創業準備や開業準備をするために特別な費用が計上される可能性が多く、赤字となる可能性が高くあります。このため、当初計画した売上等が概ね7割を達成している形で赤字になっているのであれば、赤字であっても正常先と判断することになります。なお、この計画が概ね5年以内に黒字化する計画であることが必要です。また、ほとんどの金融機関が営業黒字であることを条件としていると考えられますので、営業活動を行う上で十分に収益があげられていることが必要になります。あくまで創業費などで特別に赤字となっている、という感じです。

(2)一過性の赤字で、短期に解消できる


 (1)の場合と同様に、赤字の原因が固定資産の売却損など一過性のものである場合には、正常先と判断することができます。減損損失の計上や有価証券評価損の計上など、一過性の減益要因がある場合に、これを受けて一時的に赤字になったから直ちに要注意先と債務者区分を下げるのは、適切な債権判断ができているとは言えません。もちろん、この赤字は最終段階による赤字を想定していますので、(1)と同様に、営業損益・経常損益の段階では黒字あることが前提だと考えられます。

(3)その他、債務の返済能力に問題がない場合


 これ以外にも、赤字だけれど、潤沢な剰余金や資産売却による返済原資の確保など、返済能力には特に問題ない会社であれば正常先となる可能性があります。結局は、債務を返済することができるかどうかがポイントになりますので、そのメルクマークとして、収益性の判断を行っていると考えて問題ありません。

 また、中小企業の場合には、経営者の財産状況等を債務者と一体に査定していきます(これについては、シリーズ9の中小企業編を参照ください)。

以上、解説したものは、収益性の判断においてのみ考えた場合の目安です。債務者区分は、収益性だけでなく総合的な判断によってなされるものですから、その点は留意してください。

3.財務内容の状況

 財務内容の状況は、その会社が実質債務超過に陥っているかどうかを判断するものです。ここで、“実質”とは、資産を帳簿価額ではなく時価等で再評価し直したものをもとに、純資産を判断することを意味しています。帳簿価額は、滞留在庫や回収不能債権などを資産計上している可能性が高いことから、棚卸資産回転率や売上債権回転率などをもとに一定のストレスをかけて資産価格を修正することを行います。また、固定資産などに含まれる含み損を考慮する必要もあります。

 実質債務超過は、純資産がマイナスの状況にあるものですので、正常な会社とは言えない状況です。また、実質債務超過にある会社は、収益も低く、返済が既に延滞している可能性が高いと考えられます(収益が低いため債務超過になっており、また、返済原資がないために債務超過となっていると考えられます)。こうした会社の場合は、貸倒れる可能性が高いため、破綻懸念先に分類させる可能性が高くなります。もちろん、自己査定は収益性やキャッシュ・フローによる償還能力など、総合的な判断の結果なされるので、実質債務超過だけで破綻懸念先に分類されることはありません。

 なお、実際には多くの金融機関は、実質債務超過の解消期間について勘案しています。だいたい解消期間が5年以内であれば、破綻する懸念は少ないということで、要注意先に該当する可能性もあります(1年以内であれば正常先の可能性もあります)。

6.償還能力、返済状況

(1)償還能力


 償還能力とは、キャッシュ・ベースで返済能力があるかを判断していくものになります。銀行側からすれば実際にお金を返してもらって意味がありますので、極端な言い方をすれば、収益力が低くても、実質債務超過状態になっていても、償還能力が高ければ問題ないと言えます(実際は、収益力や財務状況が悪化している会社は、この償還能力も低い場合が多いです)。逆に、たとえ収益力が高いとしてもキャッシュを稼げていない場合には、延滞や貸倒れる可能性が高くなりますので、銀行は債務者区分を下方評価する可能性が高くなります。

 償還能力の判定式は、銀行によって若干異なりますが、概ね次の債務償還年数の算定によって把握することになります。

 

≪計算方法≫

債務償還年数

= (要償還債務-現預金) ÷ 営業キャッシュ・フロー

= (有利子負債-運転資金-現預金) ÷ (経常利益 + 償却費-税金)

 

 分子の要償還債務は具体的に有利子負債になるわけですが、有利子負債には運転資金も含まれているのが通常ですので、運転資金は減額します。また、余剰資産は売却して債務返済に充てることができますが、具体的にどれが余剰資産か貸借対照表からは知り得ないこともありますので、現預金のみ控除対象とすることがしばしばあります。

 次に分母のキャッシュ・フローですが、営業キャッシュ・フローを用いることになります。営業キャッシュ・フローは、キャッシュ・フロー計算書の「営業活動によるキャッシュ・フロー」を用いることも考えられますが、すべての会社がキャッシュ・フロー計算書を作成しているわけではありませんので(キャッシュ・フロー計算書を作成するのは有価証券報告書で財務諸表を作成している会社のみ)、簡易的に営業キャッシュ・フローを算定することになります。営業キャッシュ・フローの算定は、概ね経常利益に非現金費用である減価償却費を加算して、税金支出を減算する方法で算定します。

 この結果得られた債務償還年数の長短によって債務者区分が変わってきます。概ね次のような年数と区分の関係になることが多くあります。

 

債務償還年数(年)
債務者区分
10年未満 正常先
10年以上 20年以下 要注意先
20年以上 破綻懸念先以下

 

 ホテル業や不動産賃貸業など、借入期間が長期になる業種については、30年以上かどうかで判断する金融機関が多いと考えられます。

(2)返済状況


 上記の償還能力だけでなく、実際にきちんとお金を返しているかも当然問題となります。一般的には、「延滞状況の有無」という内容で確認が行われています。

 金融検査マニュアルでは、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞している債務者として要注意先の判断基準と考えられ、6か月以上延滞している場合、「実質的に長期間延滞している」として、実質破綻先として規定しています。このため、多くの銀行では延滞期間によって、要注意先から実質破綻先の債務者区分に分類しています。この延滞期間は各金融機関によってことなります。

 延滞期間と債務者区分の関係は、概ね次のようになっています。

 

延滞期間債務者区分
3か月以下 要注意先
3~6か月 要管理先・破綻懸念先
6か月以上 実質破綻先

 

 要管理先は、要注意先の債務者のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理債権である債務者のことであり、ここで要管理債権は、3か月以上延滞している債権が該当します。このため、大体目安として、3か月以下が要注意先、6か月以上が実質破綻先で、その間が要管理先もしくは破綻懸念先となると考えられます。

 上記で示した基準は、各銀行で異なりますので、ご注意ください。

4.再建計画による債務者の引き上げ

 破綻懸念先に分類された債務者の場合、債務超過で会ったり、債権の元利払いを延滞していたりしているのが通常ですので、経営改善計画を策定・実行するのが一般的です。そのまま放っておいても本当に倒産して債権が回収できなくなってしまいますので、メインバンクを中心に再建計画を立案するわけです。

 この場合、この再建計画が合理的で、その実現可能性が高い場合には、実際に破綻する可能性は低いものとして、要注意先に債務者区分を引き上げることが認められています。そこで、金融検査マニュアルで記述されている事項をポイントだけ解説すると、次のようになります。

 

≪再建計画のポイント≫

  • 計画期間が基本は、5年以内で実現可能性が高いこと。5年を超えるとしても10年以内で現在の計画進捗状況が8割程度は達成していれば問題なし。
  • 計画終了時点で、債務者区分が正常先となること。正常先とならないとしても、自助努力によって事業の計画性が確保できるレベルまで回復すれば問題なし。
  • 他の取引金融機関も納得している計画であること。
  • 支援内容が、債権放棄や現金贈与などの債務者への資金提供が含まれていないこと。

 これらの事項をすべて充たす債務者である場合には、要注意先へ債務者区分を引き上げることが可能となります。

 なお、金融検査マニュアルの原文を載せておきますので、必要ある方はこちらをご参照ください(中小企業に対する自己査定では、また別途考慮事項があります。こちらをご参照ください)。

 

【金融検査マニュアルの原文】

 
内容
1 経営改善計画等の計画期間が原則として概ね5年以内であり、かつ、計画の実現可能性が高いこと。
ただし、経営改善計画等の計画期間が5年を超え概ね10年以内となっている場合で、経営改善計画等の策定後、経営改善計画等の進捗状況が概ね計画どおり(売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね8割以上確保されていること)であり、今後も概ね計画どおりに推移すると認められる場合を含む。
2 計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が原則として正常先となる計画であること。ただし、計画期間終了後の当該債務者が金融機関の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が要注意先であっても差し支えない。
3 全ての取引金融機関等(被検査金融機関を含む)において、経営改善計画等に基づく支援を行うことについて、正式な内部手続を経て合意されていることが文書その他により確認できること。
ただし、被検査金融機関が単独で支援を行うことにより再建が可能な場合又は一部の取引金融機関等(被検査金融機関を含む)が支援を行うことにより再建が可能な場合は、当該支援金融機関等が経営改善計画等に基づく支援を行うことについて、正式な内部手続を経て合意されていることが文書その他により確認できれば足りるものとする。
4 金融機関等の支援の内容が、金利減免、融資残高維持等に止まり、債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を伴うものではないこと。
ただし、経営改善計画等の開始後、既に債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を行い、今後はこれを行わないことが見込まれる場合、及び経営改善計画等に基づき今後債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を計画的に行う必要があるが、既に支援による損失見込額を全額引当金として計上済で、今後は損失の発生が見込まれない場合を含む。
なお、制度資金を利用している場合で、当該制度資金に基づく国が補助する都道府県の利子補給等は債権放棄等には含まれないことに留意する。

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