株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

投資事業有限責任組合(総論、法務)

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1.投資事業有限責任組合(総論)

 投資事業有限責任組合(以下、「LPS」といいます。)は、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(以下、「LPS法」といいます。)に基づいて組成される組合型ビークルになります。LPSは、各当事者が出資を行い、事業を営むことを約することにより、その効力を生ずるものとされ(LPS法3条)、組合契約書には、LPS法3条2項に定められた事項を記載し、効力が生じたときは、主たる事務所の所在地においては2週間以内に一定の事項を登記する必要があります(LPS法17条)。

 LPSの特徴は、民法上の任意組合と同様に組合型ビークルであるため法人格を有していない点であり、また、組合員同士の組合契約によって成立する点です。一方で民法上の任意組合との大きな相違点は、組合員の中に有限責任の組合員が存在することです。民法上の任意組合は、組合員の全員が無限責任組合員として参加しており、たとえ資金提供者が投資家であろうとも、対外的には事業運営を行う業務執行組合員と同じ責任を負う必要があります。これに対して、LPSでは、対外的な無限責任を負う組合員は無限責任組合員(General Partner(GP))に限定されており、投資家は有限責任組合員(Limited Partner(LP))として対外的には有限責任(つまり出資責任)に限定されます。

 このように、GPとLPによる二重構造がLPSの最大の特徴で、民法上の任意組合と比較して、資金調達をしやすくするビークルとして考えられています。ただし、LPSの場合、投資対象とできるのは、LPS法3条に限定列挙されているため、列挙されている事業以外を投資目的とする場合には、LPSを採用することはできません。

 なお、会計上・税務上で民法上の任意組合と大きな相違点はありません。民法上の任意組合と同様に、パススルー税制が適用されます。このため、法務的な部分での検討が主な検討対象となります。

2.投資事業有限責任組合の法務

 LPSは、上記のとおり、LPS法に基づいて組成される組合型ビークルです。組合であるため、法人格を有しておらず、組合財産は共有財産となります(LPS法16条、民法688条準用)。

 LPSと民法上の任意組合を比較した際に、最も大きな相違点は、有限責任の組合員が存在することです。民法上の任意組合は、組合型のファンドとして非常に組成しやすいものですが、組合員全員が対外的に無限責任を負わなければなりません。このため、例えば、業務執行組合員を定め、投資家的組合員が実際上組合事業に直接的に参加せず、事業利回りの獲得のみを目指しているとしても、対外的には投資家的組合員も無限連帯責任を負わなければならないため、非常に高リスクな地位におかれることになり、これが資金調達の弊害になります。

 この点、LPSは投資家的組合員を有限責任とすることで、当該組合員のリスクを限定し、より柔軟な資金調達を可能になりました。ただし、民法上の任意組合と比較して、以下の3つに関して制限等があり、ファンドを組成する上で比較検討する必要があります。

  • 投資制限がある。
  • 公認会計士又は監査法人の監査が必要になる。
  • 登記事項がある。

 以下において、それぞれの事項について詳細に検討します。

3.投資事業有限責任組合における投資制限

 LPS法は、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」(以下、「中小LPS法」といいます。)を前身とするものであるため、投資対象が限定的である等の制限があります。具体的、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずることになります(LPS法3条)。

 

1 株式会社の設立に際して発行する株式の取得及び保有並びに企業組合の設立に際しての持分の取得及び当該取得に係る持分の保有
2 株式会社の発行する株式若しくは新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)又は企業組合の持分の取得及び保有
3 金融商品取引法第二条第一項各号(第九号及び第十四号を除く。)に掲げる有価証券(同項第一号から第八号まで、第十号から第十三号まで及び第十五号から第二十一号までに掲げる有価証券に表示されるべき権利であって同条第二項の規定により有価証券とみなされるものを含む。)のうち社債その他の事業者の資金調達に資するものとして政令で定めるもの(以下「指定有価証券」という。)の取得及び保有
4 事業者に対する金銭債権の取得及び保有並びに事業者の所有する金銭債権の取得及び保有
5 事業者に対する金銭の新たな貸付け
6 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法第五百三十五条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有
7 事業者の所有する工業所有権又は著作権の取得及び保有(これらの権利に関して利用を許諾することを含む。) 
8 前各号の規定により投資事業有限責任組合(次号を除き、以下「組合」という。)がその株式、持分、新株予約権、指定有価証券、金銭債権、工業所有権、著作権又は信託の受益権を保有している事業者に対して経営又は技術の指導を行う事業
9 投資事業有限責任組合若しくは民法第六百六十七条第一項に規定する組合契約で投資事業を営むことを約するものによって成立する組合又は外国に所在するこれらの組合に類似する団体に対する出資
10 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの
11 外国法人の発行する株式、新株予約権若しくは指定有価証券若しくは外国法人の持分又はこれらに類似するものの取得及び保有であって、政令で定めるところにより、前各号に掲げる事業の遂行を妨げない限度において行うもの
12 組合契約の目的を達成するため、政令で定める方法により行う業務上の余裕金の運用

 

 上記のとおり、投資対象は主に有価証券や金銭債権といった金融商品であり、不動産などに直接投資することはできません。もともと、中小LPS法は投資家がプライベートエクイティファンドを通じて、非上場企業に対して株式投資を行いやすくするためのものであったため、非上場企業の有価証券に限定されていました。それを拡大させたものがLPSであり、主な投資対象が金融商品となっています。ただし、著作権等も投資対象に含められたことから、コンテンツファンドの組成においてもLPSを利用することができます。

4.投資事業有限責任組合における監査制度

 無限責任組合員は、毎事業年度経過後3カ月以内に、その事業年度の貸借対照表、損益計算書及び業務報告書並びにこれらの附属明細書を作成し、5年間主たる事務所に備えて置かなければなりません(LPS法8条1項)。また、前項の場合においては、無限責任組合員は、組合契約書及び公認会計士(外国公認会計士を含みます。)又は監査法人の意見書(業務報告書及びその附属明細書については、会計に関する部分に限ります。)を併せて備えて置かなければなりません(同条2項)。このため、公認会計士又は監査法人の監査報告書を入手しなければならず、監査コストを負担しなければなりません。

 監査人による監査は、業種別委員会報告38号「投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い」(日本公認会計士協会、平成19年3月15日)を参照して行われます。LPSに対する監査は、上記のLPS法に基づいて行われる監査と金融商品取引法の開示規制の中で行われる監査と二種類が存在し、LPS法に基づく監査は、投資事業有限責任組合会計規則に従って行われます。

5.投資事業有限責任組合における登記制度

 LPSは、有限責任制度を採用する代わりに、登記制度を設けており、以下の事項について登記しなければなりません(LPS法17条)。

 

1 第三条第二項第一号(組合の事業)、第二号(組合の名称)、第六号(組合契約の効力の発生する年月日)及び第七号(組合の存続期間)に掲げる事項
2 無限責任組合員の氏名又は名称及び住所
3 組合の事務所の所在場所
4 組合契約で第十三条第一号から第三号までに掲げる事由以外の解散の事由を定めたときは、その事由

 

 このため、組合事務所の所在地や無限責任組合員は公示されることになり、任意組合ほどの秘匿性は保持されません。なお、有限責任組合員は登記されませんので公示されませんが、組合契約には契約当事者として記載されますので、他の組合員に参加していることが知られ、匿名組合程の秘匿性は確保されません。

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