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シリーズ<9> 財務報告に係る内部統制の評価範囲の決定方法A

1.はじめに

 シリーズ9では、シリーズ8に続き、評価範囲の決定方法について解説します。シリーズ9では、評価対象とすべき業務プロセスをどのように決定していくのか具体的に解説していきます。

2.評価の範囲の決定

 

 全社的な内部統制の評価を行い、その評価結果を踏まえて、業務プロセスの評価の範囲を決定することになります。

 全社的な内部統制については、上記で解説したように、連結ベースで行うものとされており、原則として、すべての事業拠点について全社的な観点で評価することになります。ただし、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことはできます。

 この全社的な内部統制の評価を受けて、次に業務プロセスに係る内部統制で、評価対象とすべき業務プロセスを決定していくことになります。ただし、業務プロセスは、決算・財務報告に係る業務プロセスとそれ以外に分けて、評価対象の範囲を決定していきます。以下では、それぞれの場合に分けて、解説していきます。

3.決算・財務報告に係る業務プロセス

 主として経理部門が担当する決算・財務報告に係る業務プロセスのうち、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、全社的な内部統制に準じて、すべての事業拠点について全社的な観点で評価することになります。決算・財務報告に係る業務プロセスは、他の業務プロセスと異なり、財務報告の信頼性に与える影響が高い部分であるため、別の取り扱いを求めていると考えられます。

 全社的な観点で評価することが適切と考えられる決算・財務報告プロセスには、例えば、以下のような手続が含まれます。もちろん、これ以外についても必要に応じて、全社的な観点で評価することが適切と考えられるものについては、以下の事項に加えて、すべての事業拠点について評価対象とします。

 

≪決算・財務報告プロセスに係る内部統制手続≫

  • 総勘定元帳から財務諸表を作成する手続
  • 連結修正、報告書の結合及び組替など連結財務諸表作成のための仕訳とその内容を記録する手続
  • 財務諸表に関連する開示事項を記載するための手続

 なお、全社的な内部統制の評価と同様、財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点に係るものについて、その重要性を勘案して、評価対象としないことができます。

4.決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスの評価

 決算・財務報告プロセス以外の業務プロセスは、すべてが評価対象にする必要はなく、以下の評価対象の決定手続を経て識別された業務プロセスだけが評価対象となります。評価対象として識別すべき業務プロセスは、大きく分けて次の2つになります。

 

≪業務プロセスの分類≫

  • 重要な事業拠点における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス
  • 重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセス

 この2つの業務プロセスについて、どのように識別されていくか、具体的に解説していきます。まずは、「重要な事業拠点」の決定方法から確認していきます。

(1)重要な事業拠点


 まず、企業が複数の事業拠点を有する場合には、評価対象とする事業拠点を売上高等の重要性により決定します。例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とします。すなわち、ここで選ばれた事業拠点が、「重要な事業拠点」になります。

 事業拠点は、必ずしも地理的な概念にとらわれるものではなく、企業の実態に応じ、本社、子会社、支社、支店のほか、事業部等として識別されることがあります。また、事業拠点を選定する指標として、基本的には、売上高を用いますが、企業の置かれた環境や事業の特性によって、異なる指標や追加的な指標を用いることもあります。

 そして、指標の一定割合に達している事業拠点を、重要な事業拠点として決定しますが、この「一定割合」は、全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合を概ね2/3程度や1/2程度とするなどが考えられます。これは、企業の置かれている状況などを勘案して決定することになります。なお、連結ベースの売上高に対する一定割合ではなく、内部取引の連結消去前の売上高等に対する一定割合とする方法も考えられる。関連会社については、連結ベースの売上高に関連会社の売上高が含まれておらず、当該関連会社の売上高等をそのまま一定割合の算出に当てはめることはできませんので、別途、各関連会社が有する財務諸表に対する影響の重要性を勘案して評価対象を決定することになります。

 なお、期末日直前の買収・合併、災害等、評価作業を実施することが困難な事情がある重要な事業拠点については、評価対象から除外することができるが、この場合には、内部統制報告書において評価範囲の限定の記載を行う必要があることに留意する。

(2)重要な事業拠点における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス


 上記で選定した重要な事業拠点(持分法適用となる関連会社を除く。)における、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、原則として、すべてを評価の対象としなければなりません。例えば、一般的な事業会社の場合、原則として、売上、売掛金及び棚卸資産に至る業務プロセスは、評価対象として識別されることになります。ただし、当該重要な事業拠点が行う重要な事業又は業務との関連性が低く、財務報告に対する影響の重要性も僅少である業務プロセスについては、それらを評価対象としないことができます。その場合には、評価対象としなかった業務プロセス、評価対象としなかった理由について記録しておく必要があります。

 なお、棚卸資産に至る業務プロセスには、販売プロセスの他、在庫管理プロセス、期末の棚卸プロセス、購入プロセス、原価計算プロセス等の様々な業務プロセスが関連してきますが、これらのうち、どこまでを評価対象とするかについては、企業の特性等を踏まえて、虚偽記載の発生するリスクが的確に把えられるよう、適切に判断される必要があります。一般に、原価計算プロセスについては、期末の在庫評価に必要な範囲を評価対象とすれば足りると考えられるので、必ずしも原価計算プロセスの全工程にわたる評価を実施する必要はありません。

(3)重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセス


 上記の(2)に加えて、重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点について、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加していきます。どのような業務プロセスを追加していくべきか、次のような点を留意しながら決定していきます。

 

≪追加すべき業務プロセス≫

@リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス

  財務報告の重要な事項の虚偽記載に結びつきやすい事業上のリスクを有する事業又は業務や、複雑な会計処理が必要な取引を行っている事業又は業務を行っている場合。

 

A見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス

 引当金や固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)など見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスで、財務報告に及ぼす影響が最終的に大きくなる可能性があるもの。

 

B非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス

 通常の契約条件や決済方法と異なる取引、期末に集中しての取引や過年度の趨勢から見て突出した取引等非定型・不規則な取引を行っていることなどから虚偽記載の発生するリスクが高いもの。

 

 なお、追加的に評価対象に含める場合は、財務報告への影響の重要性を勘案して、事業又は業務の全体ではなく、特定の取引又は事象(あるいは、その中の特定の主要な業務プロセス)のみを評価対象に含めれば足りる場合には、その部分だけを評価対象に含めればよいことになります。

5.監査人との協議

 評価対象とすべて業務プロセスの範囲は、もちろん経営者により決定されることですが、監査人による評価範囲の妥当性の検討の結果、後日、経営者の決定した評価範囲が適切でないと判断される場合には、様々な問題が生じてきます。この場合、経営者は、新たな評価範囲について、評価し直す必要が生じ、その手続の実施は、時間的な制約等から困難になる場合も想定されます。したがって、経営者は、評価の範囲を決定した後に、当該範囲を決定した方法及びその根拠等について、必要に応じて、監査人と協議を行っておくことが適切だと考えられます。

 経営者と監査人との協議は、二重責任の原則の観点から監査人の独立性の問題に抵触するのではないかとの懸念もありますが、内部統制について後日監査人が検証した結果、経営者との意見のギャップが生じてしまった場合、報告書の作成が間に合わないといった事態が生じる可能性も出てきます。このため、内部統制実施基準では、円滑な制度の運用ために監査人側との意見調整ないし協議が求められています(監査人側にも経営者と協議するよう内部統制実施基準で定められています)。

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