株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

金融資産・金融負債の認識の中止の日本基準とIFRSの比較

現在、こちらのアーカイブ情報は過去の情報となっております。取扱いにはくれぐれもご注意ください。

(平成23年9月20日現在)

3-1.金融資産の認識の中止の方法における比較(総論)

 日本基準とIFRSの比較の中で、金融資産の認識の中止に関する規定は、大きく相違する論点の1つです。認識の中止には、「財務構成要素アプローチ」と「リスク経済価値アプローチ」の2つのアプローチに大別できますが、日本基準は財務構成要素アプローチを採用し、IFRSはリスク経済価値アプローチを採用しているため、根本部分から考え方が異なるのです。この結果、『認識及び認識の中止シリーズ 3.IFRS金融商品会計基準の「認識の中止」におけるフローチャート』をもとに、以下のように差異を整理することができます。

  

ステップ 日本基準 IFRS

アプローチ方法

財務構成要素アプローチ(委員会報告14号244項)

金融資産を構成する財務構成要素の一部に対する支配が第三者に移転した場合に移転した当該財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する。

リスク・経済価値アプローチ(委員会報告14号244項)

金融資産を一体としてそのリスクと経済価値のほとんどすべてが第三者に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する。

連結条項

一部の特定目的会社等は連結範囲に含まれない。

すべての子会社(SPEを含む。)を連結する。

認識の中止の原則を適用する範囲

財務構成要素アプローチであるため、金融資産の財務構成要素ごとに認識の中止の原則を適用する。

①具体的に特定されたキャッシュ・フローで構成、②完全比例の構成部分、③謡的に特定された完全比例の構成部分の3つについては金融資産の一部についてのみ適用し、それ以外は金融資産全体について適用する。

資産からのキャッシュ・フローに対する権利の消滅

金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したときに認識の中止(会計基準10号8項)。

金融資産からのキャッシュ・フローの対する契約上の権利が消滅したときに認識の中止。

資産からのキャッシュ・フローを受取る権利を移転

次の要件がすべて充たされた場合に該当する(会計基準10号9項)。

①譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること。

②譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること。

③譲受人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと。

金融資産のキャッシュ・フローを受取る契約上の権利を譲渡する場合は移転。詳細な規定は存在しない。最終的には以下のリスクと経済価値がほとんど移転しているかどうかの判断にゆだねられる。

パススルーの要件

金融資産の譲受人が次の要件を充たす会社、信託又は組合等の特別目的会社の場合には、当該特別目的会社が発行する証券の保有者を当該金融資産の譲受人とみなして上記の②の要件を適用する(会計基準10号.注4)。

①特別目的会社が、適正な価額で譲り受けた金融資産から生じる収益を当該特別目的会社が発行する証券の保有者に享受させることを目的として設立されていること。

②特別目的会社の事業が、①の目的に従って適正に遂行されていると認められること。

最終受取人(eventual recipients)に当該キャッシュ・フローを支払う契約上の義務を引き受けており、次の3つの条件をすべて該当するときは、パススルー要件を満たす。

①企業が原資産からの対応金額を回収しない限り、最終受取人への支払義務がないこと。貸付金額に市場金利による発生利息を加算した額を全額回収する権利の付いた企業による短期貸付は、この条件に反しない。

②譲渡契約により、原資産の売却あるいは担保差入(最終受取人にキャッシュ・フローを支払う義務に関する担保としての差入れを除く)が禁止されていること

③最終受取人に代わって回収したキャッシュ・フローを、重要な遅滞なしに送金する義務を有していること(さらに、企業が当該キャッシュ・フローを再投資する権利を有していないこと。ただし、回収日から最終受取人への所定の送金日までの短期の決済期間における現金又は現金同等物(IAS第7号の定義による)への投資で、当該投資について稼得した利息が最終受取人に引き渡される場合は除く)

ほとんどすべてのリスクと経済価値が移転

リスク・経済価値アプローチは採用されていないため、当該検討事項は不要。

リスクと経済価値のほとんどすべてが移転したかどうかは、たいていの場合は明白。もし明白でなければ、譲渡の前後における、譲渡資産の正味キャッシュ・フローの金額及び時期の変動に対する企業のエクスポージャーを比較することにより判定する。

ほとんどすべてのリスクと経済価値を保持

同上。

同上。

資産への支配を保持

リスク・経済価値アプローチは採用されていないため、当該検討事項は不要。ただし、上記に記した14号9項②において、「譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること」が求められており、財務構成要素ごとに支配概念によって認識の中止が検討されている。

譲受人の当該資産を売却する能力(実際上の能力)の有無によって判定する。

3-2.財務構成要素アプローチとリスク・経済価値アプローチ

 上項で確認したように、日本基準は財務構成要素アプローチ、IFRSはリスク・経済価値アプローチであるため、会計基準の規定が根本的に異なります。

 日本基準で採用している財務構成要素アプローチは、財務構成要素ごとに支配概念を用いて認識の中止を検討していきます。一方で、IFRSが採用しているリスク・経済価値アプローチは、金融資産全体(ただし、具体的に特定されるキャッシュ・フローや完全比例部分などは分離)を対象にして、リスク・経済価値の移転という概念を用いて認識の中止を検討しています。ただし、リスク・経済価値の移転具合が不明確な場合には、最終的に日本基準と同様に支配概念を持ち込んで認識の中止の有無を検討することになります。

 

 IFRSを導入する際には、日本基準で行っていたアプローチが根本的に変更されることから、IFRS第9号で示されているフローチャートを基にして、再整理する必要があります。また、連結基準についても日本基準とIFRSでは大きく異なり、日本基準では一定の特定目的会社等が連結範囲から除外される規定が存在するものの、IFRSではそのような特別規定はありませんので、連結の観点からも認識の中止のためのアカウンティング・ポリシーを構築していく必要があります(認識の中止は連結範囲の検討と合わせて検討する必要があります)。

 

 一方で、金融機関や資産流動化を行っていないような企業であれば、現行と同様、IFRSが導入されたとしても実務的に大きな負担はないものと考えられます。認識の中止の部分で大きな影響を受けるのは、銀行や証券会社をはじめとする金融機関や、クレジット債権やリース債権等の証券化を頻繁に行うノンバンク系の金融機関などが考えられます。

3-3.具体的な仕訳の比較

 認識の中止の要件を満たす譲渡がなされた場合の仕訳方法として、日本基準とIFRSでは大きな差異はありません。IFRSでは、リスク・経済価値アプローチを採用するものの、サービス業務資産は新たな資産ではなく継続資産として簿価で引き継がれる処理となっているため、日本基準とその点は変わりません。 

 IFRSと日本基準で異なる点は、以下の場合です。

内 容 日本基準 IFRS

新たな資産・負債の時価が不明な場合

公正価値測定が不可能な場合は以下のように処理します。

金融資産の消滅時に残存分又は新たに生じた資産(デリバティブ)について時価を合理的に測定できない場合、その時価はゼロとして譲渡損益を計算し、その当初計上額もゼロとします。また、新たに生じた負債について時価を合理的に測定できない場合、その当初計上額は、当該譲渡から利益が生じないように計算した金額とし、また、金融資産の消滅時に、それに伴って損失の発生する可能性が高い場合には、当該損失を引き当てる会計処理が行われます(委員会報告14号38項)。

公正価値測定が不可能であるという前提にはありません。認識を継続する部分に類似した部分を売却した経験を企業が有している場合や、そのような部分について他の市場取引が存在する場合には、実際の取引の最近の価格がその公正価値の最善の見積りを提供すると規定しています。また、認識を継続する部分の公正価値の根拠となる公表価格や最近の市場取引がない場合には、その公正価値の最善の見積りは、より大きな金融資産全体の公正価値と、認識を中止する部分について譲受人から受け取った対価との差額によって求めるように規定しています(IFRS9.3.2.14)。

継続的関与における会計処理 「継続的関与」という判断基準がないため会計処理は規定されない。但し、財務構成要素アプローチのため支配が及ぶ部分は簿価として継続的に認識処理される。

継続的関与の範囲で資産の認識を継続し、関連する負債も認識する。関連する負債は、(継続的関与された)譲渡資産とその関連する負債との正味の帳簿価額が次のようになるように測定。

(a)譲渡資産が償却原価で測定されている場合には、企業が保持した権利及び義務の償却原価。

(b)譲渡資産が公正価値で測定されている場合には、企業が保持した権利及び義務の独立のものとして測定したときの公正価値と同額。

 

 IFRSが認識の中止の判断基準としてリスクと経済価値のほとんどが移転しているとも保持しているとも言えない場合に「支配しているかどうか」の判断基準を最終的に用いているため、「継続的関与における会計処理」という日本基準には存在しない規定が存在しますが、それはどちらかというと「仕訳方法」というよりも「認識の中止の判断基準の相違」によってもたらせれたものと考えられます。

3-4.金融負債の認識の中止における取扱い

 金融負債の認識の中止は、日本基準とIFRSのどちらにおいても基本的に取扱いは同様です。ただし、新たに発生した金融負債の時価の取扱いや実質的ディフィーザンス等に取扱いで、日本基準が特例的な取扱いを行っているため差異が発生しています。

 

内 容 日本基準 IFRS

原則的な規定

金融負債の消滅の認識要件は、次のとおりである(委員会報告14号43項)。

①債務者が債権者に通常、現金その他の金融資産で支払うことにより契約上の義務を履行する。

②契約上の義務が消滅する。

③債務者が、法的な手続により又は債権者により当該負債(又はその一部)に係る第一次債務者の地位から法的に免除される。

金融負債が消滅した時、すなわち、契約中に特定された債務が免責、取消し、又は失効となった時に、かつ、その時にのみ、財政状態計算書から金融負債(又は金融負債の一部)を除去しなければならない(IFRS9.3.3.1)。

新たな金融負債に時価のない場合 債務の第三者引受に際し当該第三者が倒産時に陥ったときに原債務者が負うこととなる二次的な責任である単純保証については、第三者による債務引受時に原債務者は当該二次的責任を新たな金融負債として時価により認識する。二次的責任の時価を入手できない場合、当該時価は、当該取引から利益が生じないように計算した金額又はゼロとする(委員会報告14号45項)。

時価が入手できないことは想定されていない。

実質的ディフィーザンスとデット・アサンプション

デット・アサンプションは、経過措置として一定の要件を満たしたものについて当分の間社債の消滅の認識が認められている。

デット・アサンプションに係る原債務の消滅の認識要件は、取消不能で、かつ社債の元利金の支払に充てることを目的とした他益信託等を設定し、当該元利金が保全されてる高い信用格付けの金融資産(例えば、償還日がおおむね同一の国債又は優良格付けの公社債)を拠出することである。

この場合、社債の発行体又はデット・アサンプションの受託機関に倒産の事実が発生しても、当該発行体の当該社債権者以外の債権者等が、信託した金融資産に対していかなる権利も有しないことが必要である(委員会報告14号46項)。

原則とおりの取扱い。デット・アサンプションであっても第一義的な法的義務が免除されていないため、負債の認識はしない。
著しく異なる条件による金融負債の認識の中止 これに該当する規定はない。

在の借手と貸手との間での、著しく異なる条件による負債性商品の交換は、従前の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識として会計処理しなければなりません。同様に、現存する金融負債又はその一部分の条件の大幅な変更は、(債務者の財政的困難によるものかどうかを問わず)従前の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識として会計処理しなければなりません(IFRS9.3.3.2)。

3-5.相殺処理の取扱いについて

 相殺処理は、日本基準とIFRSで以下のとおり相違があります。

内 容 日本基準 IFRS

原則的な規定

金融資産と金融負債は貸借対照表において総額で表示することを原則とするが、以下のすべての要件を満たす場合には相殺して表示できる(委員会報告14号140項)。

①同一の相手先に対する金銭債権と金銭債務であること。

②相殺が法的に有効で、企業が相殺する能力を有すること。

③企業が相殺して決済する意思を有すること。

IAS第1号「財務諸表の表示」では、IFRS要求又は許容される場合を除き、資産と負債を相殺すべきではないとする一般的な原則を定めています(IAS1.32)。

こうした中で、IAS第32号では、その例外的な規定として、次に該当する場合には、金融資産と金融負債とを相殺し、純額を財政状態計算書に表示しなければなりません(IAS32.42)。

(a) 認識された金額を相殺する法的に強制力のある権利を有しており、かつ

(b) 純額で決済するか又は資産の実現と負債の決済を同時に実行する意図を有している。

デリバティブの場合

同一相手先とのデリバティブ取引の時価評価による金融資産と金融負債については、法的に有効なマスターネッティング契約(一つの契約について債務不履行等の一括清算事由が生じた場合に、契約の対象となるすべての取引について、単一通貨の純額で決済することとする契約)を有する場合には、その適用範囲で相殺可能とする(委員会報告14号140項)。

デリバティブの規定はなく、上記と共通。マスターネッティング契約についても相殺は禁止。

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