株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

純損益を通じて公正価値で測定する金融商品(公正価値オプション)

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(平成23年5月16日現在)

7-1.純損益を通じて公正価値で測定する金融資産として指定する選択肢(公正価値オプション)

 IFRSでは、償却原価測定資産に分類される金融資産であっても、いわゆる「会計上のミスマッチ(accounting mismatch)」を除去又は大幅に削減することができる場合、純損益を通じて公正価値で測定する金融資産として指定(Option to designate a financial asset at fair value through profit or loss:FVTPLの指定)することができます(IFRS9.4.1.5)。一般的に、これを「公正価値オプション」と呼んでいます。

  

 [金融資産に公正価値オプションが認められる場合]

  • 会計上のミスマッチを除去又は大幅に削減できる場合のみ金融資産に公正価値オプションが適用可能。

 

 会計上のミスマッチとは、純損益を通じて公正価値で測定することを選択しなかった場合に、資産又は負債の測定又はそれらに係る利得及び損失の認識を異なる基礎で行うことから生じるであろう測定又は認識の不整合のことをいいます(IFRS9.4.1.5中段)。

 

 公正価値オプションは、会計上のミスマッチが生じる場合にのみ適用することが認められるものです。金融資産に償却原価測定が適用されるのは、事業モデルテストと契約上のCF特性テストを両方ともパスしたものだけで、限定的な条件が求められています。このため、特別な事情(会計上のミスマッチの除去又は大幅な削減)がない限り、公正価値オプションの適用を認める会計的意義はないものと考えられます。

 なお、公正価値オプションは、金融負債にも認められています(金融負債の公正価値オプションは後述)。金融負債の公正価値オプションの適用条件は、上記の会計上のミスマッチを解消する場合と公正価値ベースで管理・業績評価されている場合になります。金融資産では公正価値ベースで管理・業績評価されている場合、償却原価測定への分類テストをパスできないため、純損益を通じた公正価値測定がもともと要求されており、公正価値オプションの適用が基準化されていないのです。

 

〈会計方針としての取扱い〉


 企業が金融資産又は金融負債を、純損益を通じて公正価値で測定するものと指定するという決定は、会計方針の選択と似ています。ただし、会計方針の選択とは異なり、同種の取引すべてに対して一貫して適用する必要はないため、会計方針の選択には該当しません。

 企業が会計方針の変更を行う場合には、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更および誤謬」に定めるとおり、その方針を選択することによって、結果として財務諸表が取引の影響やその他の事象及び企業の財政状態、財務成績及びキャッシュ・フローに関する状況に関して、信頼性の高い、より目的適合性の高い情報を提供するようになることを求められています。このため、公正価値オプションは、会計方針の選択ではありませんが、公正価値オプションを選択するという決定の場合にも同様の条件が求められると考えられます(IFRS9.B4.1.28)。

 

〈同時の取り組み〉 


 実務的な観点からいえば、企業は、会計上のミスマッチを生じさせる資産及び負債のすべてを同時に取り組む必要はありません。各取引が当初認識時に公正価値オプションが適用され、同時に、残りの取引の発生が予想される場合には、合理的な範囲での遅延(reasonable delay)は許容されます(IFRS9.B4.1.31)。

 

〈金融資産及び金融負債の一部に公正価値オプションを適用〉


 また、会計上のミスマッチを引き起こす金融資産及び金融負債のうちの一部についてのみ公正価値オプションを適用することは、会計上のミスマッチを除去又は大幅に削減する場合(つまり、目的適合性の高い情報をもたらす場合)にしか認められません。

 例えば、企業が合計50円の多数の同種の金融資産と、合計100円の多数の同種の金融負債を保有しており、その双方が異なるベースで測定されているとします。こうした場合、企業は、当初認識時に、資産50円すべてと負債の一部45円分について、公正価値オプションを適用することで測定上の不整合を大幅に削減する可能性があります。

 ただし、公正価値オプションは、ある金融商品全体に対してのみ適用されるため、企業は1つ以上の負債全体を指定する必要があります。ある負債の一部(例えば、ベンチマーク金利における増減等、1つのリスクのみに起因する価値の増減)又は負債の一定割合のみ(すなわち百分率比)を指定することは不可能であると考えられます(IFRS9.B4.1.32)。

 

 

 [公正価値オプション適用の留意点]

  • 公正価値オプションは会計方針ではないが、IAS第8号の条件を満たす必要がある。
  • 実務的観点から、合理的な範囲において、同時に資産と負債の取引が発生しなくてもよい
  • 金融資産及び金融負債のうちの一部についてのみ公正価値オプションを適用することも(会計上のミスマッチを除去又は大幅に削減することができれば、)認められている。
  • ただし、1つのリスクのみに起因するものや一定割合に対する指定はできない。

 

7-2.会計上のミスマッチを除去又は大幅に削減する場合

 公正価値オプションを適用することで会計上のミスマッチが除去又は大幅に削減される場合として、IFRSでは次のような例を紹介しています(IFRS9.B4.1.30)。

 

(A) 保険契約の負債


 企業が保険契約に基づく負債を有しており、その測定が現在の情報を組み込むもの(IFRS第4号で認められているような)であって、それに関連すると企業が考えている金融資産が、指定をしなければ償却原価で測定されることとなる場合

 

(B) 相殺するリスク・ポジション


 企業が金利リスクを共有する金融資産、金融負債又はその両方を有しており、そのリスクは互いに相殺し公正価値の反対方向への増減を生じさせる場合で、金融商品の一部のみが純損益を通じて公正価値で測定されてしまう場合(すなわち、デリバティブ又は売買目的と分類される)。

 

(C) ヘッジ要件を満たさず会計上のミスマッチが生じる場合


 企業が金利リスクを共有する金融資産、金融負債又はその両方を有しており、そのリスクは互いに相殺し公正価値の反対方向への増減を生じさせるが金融商品のいずれもがデリバティブでないために、企業がヘッジ会計の要件を満たさない場合で、ヘッジ会計がないと、利得及び損失の認識に重大な不整合が生じるという場合。

 例えば、企業が、債券を発行し、当該債券によって調達した資金で貸付金によって運用しているとします。企業が発行した債券は市場で取引されており、企業は当該債券を購入することも売却することもでき、実際に企業が当該債券を頻繁に売買しているとします。一方で、貸付金についてはほとんど売買していないとします。貸付金と債券はそれぞれ金利リスクにさらされており、金利変動によって逆方向に公正価値が変動します。

 この場合、例えば、貸付金及び債券を償却原価によって測定していた場合、互いの相殺関係は実現できません。なぜなら、貸付金は償却原価による実効金利が損益として認識される一方、債券は公正価値による売買を通じて結果として公正価値による純損益が認識され、相殺関係は財務諸表上で実現できないからです。このため、より目的適合性を高めるため、互いに公正価値オプションを適用することが考えられます。

 

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