株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

IAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」

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(平成22年7月31日現在)

1.ジョイント・ベンチャーの対する持分(総論)

 本シリーズでは、ジョイント・ベンチャーに対する持分の会計処理について、IAS31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」を中心に解説します。

 IAS31号は、ジョイント・ベンチャーの活動が行われる組織又は形態を問わず、共同支配投資企業及び投資企業の財務諸表におけるジョイント・ベンチャーに対する持分の会計処理及びジョイント・ベンチャーの資産、負債、収益及び費用に関する報告に適用します。ただし、関連会社に対する投資の場合と同様に、ベンチャー・キャピタル企業又はミューチュアル・ファンド、ユニット・トラスト及び投資連動型保険ファンドを含むその他の類似企業において、IAS39号「金融商品:認識及び測定」にある公正価値オプションを適用した場合や売買目的保有に分類された場合には、IAS31号に従った処理は行われず、IAS39号に従った会計処理が行われます(IAS31.1)。

 共同支配とは、経済活動に対する契約上合意された支配の共有をいい、その活動に関連する戦略的な財務上及び営業上の決定に際して、支配を共有する当事者(共同支配投資企業)の一致した合意を必要とする場合をいいます(IAS31.3)。また、ジョイント・ベンチャーとは、複数の当事者が共同支配により、ある経済活動を行う契約上の取り決めをいいます(IAS31.3)。

 IAS31号では、ジョイント・ベンチャーを、①共同支配の営業活動、②共同支配の資産、③共同支配企業の3つに大きく識別し、会計処理を定めています。これらの共通した特徴は、複数の共同支配投資企業が契約上の取決めによって拘束されていること及び共同支配を確立させる契約上の取決めがあることが挙げられます(IAS31.7)。

2.契約上の取決め

 契約上の取決めの存在により、共同支配を伴う持分は、投資企業が重要な影響を有している関連会社に対する投資と区分されます。共同支配を確立させる契約が存在しない活動は、IAS31号のジョイント・ベンチャーには該当しません(IAS31.9)。

 契約上の取決めは、例えば共同支配投資企業間の契約又は覚書などの様々な方法が証拠となります。その取決めがジョイント・ベンチャーの定款又は他の規約に盛り込まれることもあります。契約上の取決めは、その様式が何であれ、通常は書面で、次の事項について取り交わされます(IAS31.10)。

 

1 ジョイント・ベンチャーの活動、期間及び報告の義務
2 ジョイント・ベンチャーの取締役会又は同等の統治機関の選定及び共同支配投資企業の投票権
3 共同支配投資企業による資本拠出
4 ジョイント・ベンチャーによる生産物、収益、費用又は業績に対する共同支配投資企業の持分

 

 上記のように、契約上の取決めによって、ジョイント・ベンチャーに対する共同支配が確立します。この契約上の取決めによって、どの共同投資企業も、ジョイント・ベンチャーの活動を一方的に支配することはできません(IAS31.11)。

 契約上の取決めによって、共同支配投資企業のうち1社が、当該ジョイント・ベンチャーの運営者又は管理者となることもあります。運営者は、ジョイント・ベンチャーを支配することはありませんが、契約上の取決めに従って、共同支配投資企業が合意し、当該運営者に委託した財務及び経営上の方針内でその職務を遂行することになります。ただし、運営者がその経済活動の財務及び経営上の方針を統治する力を有している場合には、運営者はそのベンチャーを支配し、そのベンチャーはその運営者の子会社となるため、ジョイント・ベンチャーには該当しません(IAS31.12)。

 なお、ジョイント・ベンチャーの運営者又は管理者はIAS18号「収益」に従って、管理報酬を会計処理します(IAS31.52)。また、単独の又は複数の共同支配投資企業が、ジョイント・ベンチャーの活動の運営者又は管理者として職務を遂行する場合には、運営者は、通常、そのような職務に対して管理報酬が支払われるため、このような報酬は、ジョイント・ベンチャーで費用として会計処理します(IAS31.53)。

3.共同支配の営業活動

 共同支配の営業活動の例としては、複数の共同支配投資企業が特定の製品、例えば航空機などの生産、販売及び供給を共同で行うために、それぞれの営業、資源及び技術を組み合わせる場合です。それぞれの共同支配投資企業は、製造工程において異なる部分を担当し、それぞれの共同支配投資企業は、各自の費用を負担し、航空機の売却から得た収益のうち持分相当額の配分を受けます。この配分は、契約上の取決めによって決定されます(IAS31.14)。このケースは、それぞれの共同支配投資企業は、自己の所有する資産を利用し、業務遂行は各共同支配投資企業の従業員によって遂行されます。

 共同支配の営業に対する持分については、共同支配投資企業は、財務諸表において次の項目を認識しなければなりません(IAS31.15)。

 

1 共同支配投資企業の支配する資産及び生じた負債
2 共同支配投資企業に生じた費用及びジョイント・ベンチャーによる商品の販売又は役務提供から得た収益のうち持分相当額

 

 資産、負債、収益及び費用は、共同支配投資企業の財務諸表で認識されているため、当該共同支配投資企業が連結財務諸表を開示している場合には、当該項目に関しては、調整又はその他連結手続は要求されません(IAS31.16)。また、共同支配投資企業は、ジョイント・ベンチャーの業績を評価できるように管理用の決算を作成することもありますが、ジョイント・ベンチャー自体について別個の会計記録も要求されず、ジョイント・ベンチャーに関する財務諸表が作成されないこともあります(IAS31.17)。

4.共同支配の資産

 ジョイント・ベンチャーの中には、ジョイント・ベンチャーに拠出されたか又はジョイント・ベンチャーのために取得され、ジョイント・ベンチャーの目的のために提供された1つ以上の資産を共同支配投資企業が共同支配し、しばしば共同所有しているものがあります。当該資産は、共同支配投資企業の便益を得るために用いられ、それぞれの共同支配投資企業は、当該資産の生産物の分配を受け、また生じた費用のうち合意された割合に応じて費用を負担します(IAS31.18)。このパターンのジョイント・ベンチャーを「共同支配の資産」といいます。石油、ガス及び鉱物掘削業の活動の多くは、共同支配の資産が関わっています。多くの石油生産企業が、石油パイプラインを共同支配して運営しています。それぞれの共同支配投資企業は、当該パイプラインを用いて生産物を輸送し、パイプラインの使用に伴う費用のうち合意された割合を負担します。共同支配の資産の他の例として、2つの企業が不動産を共同で支配し、それぞれの企業は、受取賃料の分配を受け、費用の持分を負担する場合があります(IAS31.20)。

 共同支配投資企業は、共同支配の資産に対する持分に関して、財務諸表に次の項目を認識しなければなりません(IAS31.21)。

 

1 資産の性質に従って分類された共同支配の資産のうち持分相当額
2 共同支配投資企業に生じた負債
3 ジョイント・ベンチャーに関連する他の共同支配投資企業と共同で生じた負債のうち持分相当額
4 ジョイント・ベンチャーの生産物のうち持分にかかる売却または使用から得た収益及びジョイント・ベンチャーによって生じた費用のうち持分相当額
5 ジョイント・ベンチャーに対する持分に関して生じた費用

 

 この資産、負債、収益及び費用は、共同支配投資企業の個別財務諸表で認識されるので、当該企業が連結財務諸表を作成する場合に、これらの項目に関する調整又はその他の連結手続は要求されません(IAS31.22)。

 また、共同支配の営業と同様に、ジョイント・ベンチャーの成果を評価するために内部管理用の決算は作成することがあっても、ジョイント・ベンチャーに関する財務諸表は作成しないのが一般的です(IAS31.23)。

5.共同支配企業

 共同支配企業は、それぞれの共同支配投資企業が持分を有する法人、パートナーシップ又は他の事業体の設立を伴うジョイント・ベンチャーです。当該企業は、共同支配投資企業の間の契約上の取決めによってその経済活動が共同支配されていることを除いては、他の企業と同一の方法で運営されます(IAS31.24)。共同支配企業は、ジョイント・ベンチャーの資産を支配し、負債及び費用を生じさせ、収益を稼得します。共同支配企業は、ジョイント・ベンチャーの活動のために、自己の名義によって契約を締結し、資金調達を行います。共同支配投資企業は、共同支配企業の利益の配分を受ける権利を有する場合もあれば、生産物の配分を受ける場合もあります(IAS31.25)。

 共同支配企業の多くは、共同支配の営業活動又は共同支配の資産に関してジョイント・ベンチャーと実質的に類似しています。例えば、共同支配投資企業は、税金又はその他の理由のために、石油パイプラインなどの共同支配の資産を共同支配企業に移す場合があります。同様に、共同支配投資企業は、共同運営される資産を共同支配企業へ拠出する場合があります。また、共同支配の営業には、例えば、製品の設計、販売、供給又はアフターサービスなどの特定の活動を行う共同支配企業の設立を伴うものもあります(IAS31.27)。

 共同支配企業は、会計記録を保持し、他の企業と同一の方法でIFRSに準拠して財務諸表が作成されます(IAS31.28)。また、それぞれの共同支配投資企業は、通常、共同支配企業に現金又は他の資源を拠出するため、これらの拠出が、共同支配投資企業の会計記録に含まれ、共同支配企業に対する投資として財務諸表において認識されます(IAS31.29)。

6.共同支配企業における比例連結と持分法

 共同支配投資企業は、比例連結又は持分法のどちらかによって共同支配企業に対する持分を認識します(IAS31.30)。ここで、比例連結とは、共同支配投資企業の財務諸表において、共同支配企業の資産、負債、収益及び費用の各科目に対する共同支配投資企業の持分相当額を、科目ごとに類似の項目と合算するか又は独立科目として報告する、会計処理及び報告の方法をいいます(IAS31.3)。

 比例連結を採用する場合、共同支配投資企業の固有の資産、負債、収益及び費用とジョイント・ベンチャーのそれらとを合算して処理する方法と、区分して処理する方法の2つが認められています(IAS31.34)。

 比例連結の会計処理方法は、ほとんどがIAS27号に定める子会社に対する投資の連結手続と類似しています(IAS31.33)。法的に相殺する権利が存在し、その相殺によって、資産の実現又は負債の決済の期待を示す場合を除き、ある資産又は負債を他の負債又は資産の減額によって相殺したり、ある収益又は費用を他の費用又は収益の減額によって相殺したりすることは不適切とされています(IAS31.35)。

 共同支配投資企業は、共同支配企業に対する共同支配を喪失した日から、比例連結の適用を中止します(IAS31.36)。例えば、共同支配投資企業が持分を処分した場合、又は、共同支配投資企業が共同支配を喪失することになる外部からの制限が加えられた場合に起こります(IAS31.37)。

 

 上記の比例連結以外に、持分法によって会計処理することも認められています。共同支配投資企業の中には、支配されている項目(共同支配投資企業の固有項目)と共同支配されている項目(共同支配企業に対する共同支配投資企業の持分相当額)が混在していることが不適切であるという考えや、共同支配企業に対しては、共同支配というより重要な影響力を有しているに過ぎないと考えている企業も多く、この場合、比例連結よりも持分法の適用が肯定されます。IAS31号では持分法の適用を奨励はしていませんが、適用そのものを認めています(IAS31.40)。 持分法により処理する場合は、IAS28号と同様の会計処理になると考えられます。

7.共同支配投資企業とジョイント・ベンチャーとの取引

 共同支配投資企業が、ジョイント・ベンチャーに資産を拠出又は売却する場合には、その取引から生じる利得又は損失のうち部分的な認識は、当該取引の実質を反映しなければなりません。当該資産がジョイント・ベンチャーによって保持されていてはいるが、共同支配投資企業が所有に伴う重大なリスクと経済価値をジョイント・ベンチャーに移転している場合には、共同支配投資企業は、その利得又は損失のうち、他の共同支配投資企業の持分に帰属する額のみを認識しなければなりません。拠出又は売却が流動資産の正味実現可能価額の減少又は減損損失の証拠を示している場合、共同支配投資企業は、その損失の全額を認識しなければなりません(IAS31.48)。上記のとおり、共同支配企業の資本持分と交換に行われた共同支配企業に対する非貨幣性資産の拠出については、共同支配投資企業は、他の共同支配投資企業の資本持分に帰属する部分の利得又は損失を純損益に認識しますが、以下の場合には、認識しません(SIC13.5)。下記の1~3に該当する場合には、未実現損益として認識されます。

 

1 拠出された非貨幣性資産についての所有権に伴う重大なリスクと便益が共同支配企業に移転されていない場合
2 当該非貨幣性資産の拠出による利得又は損失を信頼性をもって測定できない場合
3 拠出取引ついて、IAS16号「有形固定資産」に条件が記載されているように、経済的実質を欠いている場合

 

 共同投資企業が共同支配企業に対する資本持分の受領に加えて、貨幣性又は非貨幣性資産を受け取る場合には、その共同支配投資企業は、当該取引によいる利得又は損失の適切な部分を純損益に認識しなければなりません(SIC13.6)。ただし、上記の1~3に該当する場合には未実現損益として同様に処理されます。

 未実現損益は、比例連結方式においては関連する資産から又は持分法においては投資勘定から消去します。未実現損益を共同支配投資企業の連結財政状態計算書に繰延損益として表示してはなりません(SIC13.7)。

 

 共同支配投資企業が資産をジョイント・ベンチャーから購入する場合には、共同支配投資企業は、独立した第三者に当該資産を売却するまでは、当該取引から生じるジョイント・ベンチャーの利益に対する持分相当額を認識してはなりません。共同支配投資企業は、これらの取引から生じた損失についても、利益と同一の方法で認識しなければなりません。ただし、このような損失が、流動資産の正味実現可能価額の減少又は減損損失によるものである場合には直ちに認識しなければなりません(IAS31.49)。

 なお、共同支配投資企業とジョイント・ベンチャーとの取引により資産の減損があったかどうかを検討するため、共同支配投資企業は、IAS36号「資産の減損」に従って回収可能価額を算定します。使用価値を算定する際には、共同支配投資企業は、当該資産の将来キャッシュ・フローを、ジョイント・ベンチャーによる継続的使用及び最終処分に基づいて見積ります(IAS31.50)。

8.その他の会計処理

 IFRS5号「売買目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に従って売買目的として分類される共同支配企業に対する持分は、IFRS5号に従って会計処理しなければなりません(IAS31.42)。

 また、投資企業が企業に対する共同支配を喪失した場合には、以前の共同支配企業が子会社又は関連会社とならない限り、残存している投資をその日からIAS39号に従って会計処理します。また、子会社となった場合にはIAS27号「連結及び個別財務諸表」及びIFRS3号「企業結合」に従った会計処理、関連会社となる場合にはIAS28号に従った会計処理となります。投資企業は、残存する投資の公正価値及び共同支配企業に対する持分の一部の処分による収入額と共同支配を喪失した日現在の投資の帳簿価額との差額を純損益として処理します(IAS31.45)。投資がIAS39号に従った会計処理となった場合、共同支配を喪失した日の投資の公正価値を、IAS39号に従って金融資産として当初認識した時の公正価値とみなします(IAS31.45A)。

 また、投資企業が企業に対する共同支配を喪失した場合に、投資企業は当該共同支配企業に関してその他の包括利益に認識されたすべての金額を、共同支配企業が関連する資産又は負債を直接処分したとした場合に要求されるのと同じように会計処理しなければなりません(IAS31.45B)。子会社や関連会社への投資の場合と同様です。

9.開示

 共同支配投資企業は、損失の可能性が極めて少ない場合を除き、次の偶発負債の合計額を、他の偶発負債とは別個に開示しなければなりません(IAS31.54)。

 

1 ジョイント・ベンチャーに対する持分に関連して発生した共同支配投資企業の偶発負債及び他の共同支配投資企業と共同して負うこととなった偶発負債のうち持分相当額
2 ジョイント・ベンチャー自体の偶発負債で共同支配投資企業が偶発的支払義務を負っているもののうち、持分相当額
3 ジョイント・ベンチャーの他の共同支配投資企業の負債について、共同支配投資企業が偶発的支払義務を負っているために、偶発負債となっているもの

 

 共同支配投資企業は、ジョイント・ベンチャーに対する持分に関して、他の支出契約とは別個に次の支出契約の合計額を開示しなければなりません(IAS31.55)。

 

1 ジョイント・ベンチャーに対する持分に関連して生じた共同支配投資企業の資本的支出契約及び他の共同支配投資企業と共同で生じた資本的支出契約のうち持分相当額
2 ジョイント・ベンチャー自体の資本的支出契約のうち持分相当額

 

 共同支配投資企業は、重要なジョイント・ベンチャーに対する持分の一覧表と説明、共同支配企業に対する持分割合を開示しなければなりません。また、共同支配企業に対する持分を科目ごとに比例連結の報告様式又は持分法のいずれかを用いて認識する場合、ジョイント・ベンチャーに対する持分に相当する流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、収益及び費用のそれぞれの合計額を開示しなければなりません(IAS31.56)。共同支配投資企業は、共同支配企業に対する持分を認識するために用いた方法を開示しなければなりません(IAS31.57)。

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