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定義と適用範囲の日本基準とIFRSの比較

(平成23年9月20日現在)

はじめに−

 前シリーズまでは、IFRSの内容を中心に解説してきました。前シリーズまでの解説を読んで頂くと、IFRSと日本基準の間で「算定結果」が大きく異ならないとしても、「計算ロジックが大きく異なる」可能性が大いにあることが理解できるかと思います。

 「計算ロジック」の変更は、会計システムや業務システムの改訂作業が必要となり、場合によっては多大なシステム再投資を必要になるケースも考えられます。また、一部業務(特に決算・財務報告プロセス)については内部統制システムの変更も必要になる可能性があります。

 さらに、「計算ロジック」だけでなく、今まで通りでは「計算結果」の部分にも大きく影響が出てしまうような、例えばヘッジ部分などについても、ヘッジ戦略やヘッジ規定の見直しが必要になる場合も想定されます。特に、金利スワップや通貨系デリバティブにおいて日本基準では特別認められていた「特例処理」が認められなくなったり、銀行業で認められていた業種別委員会報告24号に基づく24号ヘッジなども、IFRSの定める金利リスクのポートフォリオヘッジのロジックに再構築する必要が生ずる可能性もあります。

 

 このため、まずは、以下の点を整理していく必要があります。

  • どの部分に金額的影響が出そうか
  • どの部分にシステム投資を必要とするか
  • どの部分に内部統制の変更が出るのか
  • どのような戦略の立て直しがいるのか
  • 最終的にこれらの対応をするためにタイムスケジュールと予算をどの程度確保する必要があるのか(人員確保と予算)

 

 本シリーズでは、このための第1段階として、金融商品会計の日本基準とIFRSの差異について確認していきます。

1−1.金融商品会計基準における各種定義

 日本基準においても、金融商品会計基準および実務指針等で各用語の定義付けがされています。

 

(A) 金融商品、金融資産、金融負債


「金融商品」、「金融資産」、「金融負債」の定義については以下のとおりですが、IFRSと比較して特に相違する点はありません。

 

用  語 日本基準 IFRS

金融商品

一方の企業に金融資産を生じさせ他の企業に金融負債を生じさせる契約及び一方の企業に持分の請求権を生じさせ他の企業にこれに対する義務を生じさせる契約(株式その他の出資証券に化体表章される契約である。)(会計制度委員会報告14号第3項)。

一方の企業にとっての金融資産と、他の企業にとっての金融負債又は資本性金融商品の双方を生じさせる契約をいう。

金融資産  現金、他の企業から現金若しくはその他の金融資産を受け取る契約上の権利、潜在的に有利な条件で他の企業とこれらの金融資産若しくは金融負債を交換する契約上の権利、又は他の企業の株式その他の出資証券(会計制度委員会報告14号第4項)。

 

次のような資産をいう。

(a) 現金

(b) 他の企業の資本性金融商品

(c) 次のいずれかの契約上の権利

  • 他の企業から現金又は他の金融資産を受け取る。
  • 金融資産又は金融負債を当該企業にとって潜在的に有利な条件で他の企業と交換する。

(d) 企業自身の資本性金融商品で決済されるか又は決済される可能性のある契約のうち、次のいずれかであるもの

  • デリバティブ以外で、企業が企業自身の可変性の資本性金融商品を受け取る義務があるか、又はその可能性があるもの
  • デリバティブで、固定額の現金又は他の金融資産と企業自身の固定数の資本性金融商品との交換以外の方法で決済されるか、又はその可能性があるもの。企業自身の資本性金融商品の将来の受取り若しくは引渡しに関する契約である金融商品は含まない。
金融負債  他の企業に金融資産を引き渡す契約上の義務又は潜在的に不利な条件で他の企業と金融資産若しくは金融負債(他の企業に金融資産を引き渡す契約上の義務)を交換する契約上の義務(会計制度委員会報告14号第5項)。

次のような負債をいう。

(a) 次のいずれかの契約上の義務

  • 他の企業に現金又は他の金融資産を支払う。
  • 金融資産又は金融負債を当該企業にとって潜在的に不利な条件で他の企業と交換する。

(b) 企業自身の資本性金融商品で決済されるか又は決済される可能性のある契約のうち、次のいずれかであるもの

  • デリバティブ以外で、企業が企業自身の可変数の資本性金融商品を引き渡す義務があるか又はその可能性があるもの
  • デリバティブで、固定額の現金又は他の金融資産と企業自身の固定数の資本性金融商品との交換以外の方法で決済されるか、又はその可能性があるもの。企業自身の資本性金融商品の将来の受取り若しくは引渡しに関する契約である金融商品は含まない。

 

(B) 資本性金融商品


 IFRSではIAS第32号で資本と負債の包括的な区分基準が設定されていますが、日本基準では明確な区分規定はありません。このため、日本基準では「資本性」「負債性」という会計概念上のものであり、IFRSのような「資本性金融商品」の定義がありません。IFRSを導入する際には、資本性金融商品と負債性金融商品の区分基準についてIAS第32号を中心に理解し、会計方針として明確な経理規定を設ける必要があります。IAS第32号の資本性金融商品および負債性金融商品の区分については、特に金融機関や複雑な資金調達ストラクチャーを行っている企業(もしくは投資企業)にとって実務的に難しい判断が要するものと考えられます。

 

1−2.デリバティブの定義の相違

 デリバティブの定義は、日本基準とIFRSで若干異なり、このためデリバティブとしての範囲も異なることになります。当該金融商品(ないし契約)がデリバティブであるか否かは、組込デリバティブの会計処理も含めて、実務的に重要な差異をもたらせます。日本基準では次のような特徴を有する金融商品としてデリバティブが定義されています(会計制度委員会報告14号第6項)。

 

内  容 日本基準 IFRS

基礎変数について

その権利義務の価値が、特定の金利、有価証券価格、現物商品価格、外国為替相場、各種の価格・率の指数、信用格付け・信用指数、又は類似する変数(これらは基礎数値と呼ばれる。)の変化に反応して変化する@基礎数値を有し、かつ、A想定元本か固定若しくは決定可能な決済金額のいずれか又は想定元本と決済金額の両方を有する契約である。

特定の金利、金融商品価格、コモディティ価格、外国為替相場、価格またはレートの指数、信用格付または信用指数、またはその他の変数に対応してその価値が変動する。非金融商品項目の変数の場合は、当該変数は取引当事者に特有でないものである(この特徴は「基礎変数(underlying)」と呼ばれることがある)。

当初純投資について 当初純投資が不要であるか、又は市況の変動に類似の反応を示すその他の契約と比べ当初純投資をほとんど必要としない。

 

当初純投資額を要求しない又は市況の変動に類似の反応をもつと期待される他の種類の契約で要求されるよりも少額の純投資額を要求する。

決済条件について その契約条項により純額(差金)決済を要求若しくは容認し、契約外の手段で純額決済が容易にでき、又は資産の引渡しを定めていてもその受取人を純額決済と実質的に異ならない状態に置く。

将来の日に決済される

 

 上記のとおり、デリバティブの定義は日本基準とIFRSでそれほど違いはありません。ただ、細かく見れば、日本基準とIFRSで以下のような相違があります。

 

(i) 非金融商品(コモディティ)の基礎変数定義について

IFRSでは、非金融商品の場合の基礎変数について、「取引当事者に特有のものでないもの」と除外規定されていますが、日本基準では特にそのような除外規定はありません。

 

(ii) 純投資の定義について

IFRSでは、「市況の変動に類似の反応をもつと期待される他の種類の契約で要求されるよりも少額の純投資額を要求」であるのに対し、日本基準は「ほとんど必要としない」という規定である点が異なります。

 

(iii) 決済方法について

IFRSでは、将来時点で決済されればよいのに対し、日本基準では「純額決済」でなければなりません。

1−3.コモディティの取扱いについて

 IFRSでも日本基準でも、コモディティ取引は金融商品ではありません。また、金融商品ではなくても、金融商品と同様の性質をもつコモディティ取引(ないし、コモディティ・デリバティブ取引)は、金融商品会計基準に含まれます。

 日本基準では、コモディティに関する売買契約のうち、トレーディング目的に該当するコモディティ取引は、売買目的有価証券に準じて会計処理されることになり(企業会計基準第9号第60項)、将来予測される仕入、売上又は消費を目的として行われる取引で、当初から現物を受け渡すことが明らかなものは金融商品会計基準の適用範囲とし、現物を実際に受け渡すことなく、通常差金決済により取引されるもの(コモディティ・デリバティブ)は金融商品会計基準のデリバティブとして取り扱うことになります。

 IFRSでは、非金融商品項目の売買契約は、「現金又はその他の金融商品での純額決済又は金融商品との交換により決済できるもの」が金融商品会計基準の適用範囲とされていて、実質的に日本基準と相違ありません。トレーディング目的のコモディティ取引についても含まれることは、IAS39.6(c)にて明記されています。

 実務的な視点からすれば、おそらく、日本基準とIFRSにおける適用の差異はコモディティ・デリバティブとしての取扱いで異なる可能性があります。上記のとおり、IFRSの方が若干日本基準よりも範囲が広いように見受けられるので、その結果、コモディティ取引がコモディティ・デリバティブとして認識され、組込デリバティブ等の会計処理が発生する可能性があります。

 また、経験則上、本来は日本基準上でもデリバティブ取引として処理しなければならなかったものが見落とされている可能性が否定できません。IFRSの導入検討に従って、従来の契約等を見直したときに、実はある契約条項がデリバティブに該当しているにもかからわずオフバランス会計処理(すなわち会計処理の誤謬)であったことが発見され、会計処理が適正なものに変更されるということはあり得るのではないかと思います。もちろん、重要性の判断も行われるため、アカウティング・ポリシー上でどのように決定するのか、監査法人側の見解も参考にしつつ決定していく必要があると思われます。

1−4.ローン・コミットメントの取扱いについて

 ローン・コミットメントは、日本基準とIFRSでその取扱いが明確に異なります。

 

内  容 日本基準 IFRS

会計処理

ローン・コミットメント契約自体はオンバランス処理されない(金融機関で支払承諾勘定として処理されることはある)。

次の3つのコミットメントはIAS39号の適用範囲であり、それ以外のコミットメントはIAS第37号に従って会計処理される。

@企業がFVTPLで測定する金融負債に指定したローン・コミットメント

A現金又は他の金融商品の引渡し又は発行での純額決済が可能なローン・コミットメント

B市場金利を下回る金利でローンを提供するコミットメント

表示 当座貸越契約(これに準ずる契約を含む。)及び貸出コミットメントについて、貸手である金融機関等は、その旨及び極度額又は貸出コミットメントの額から借手の実行残高を差し引いた額を注記する。

すべてのコミットメントについて、IFRS第7号に従って開示される。日本基準のような個別の注記事項は規定されていない。

 

 コミットメント契約の資金調達サイド(すなわち借手側)は、まだ何も履行されておらず、また、不利になるようなことも特にないため、日本基準、IFRSともに何ら会計処理されないと考えられます。なお、支払ったコミットメントフィーについては、コミットメント契約期間を通じて費用処理されることになります。

1−5.子会社株式、関連会社株式の取扱いについて

 子会社株式、関連会社株式については、日本基準上、金融商品会計基準の適用範囲内として会計処理が規定されています。一方で、IFRSでは、IFRS第10号~IFRS第12号にて規定されており、金融商品会計基準の中では取扱いされていません。

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