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適格なヘッジ手段と適格なヘッジ対象

(平成23年5月16日現在)

4−3.適格なヘッジ手段とは

 ヘッジ会計が認められるのは、「適格な(qualifying)」ヘッジ対象が保有する何らかのリスクを、「適格な」ヘッジ手段を用いて、ヘッジ対象とヘッジ手段の間にIFRSの求めるヘッジ関係が存在するときに認められます。このため、IFRSでは認められない適格ではないヘッジ対象やヘッジ手段である場合、ヘッジ会計を適用することはできません。ここでは、まず、適格なヘッジ手段(qualifying instruments)について解説します。

 

 IAS第39号は、売建オプションの一部を除き、原則としてデリバティブだけが適格なヘッジ手段となります。ただし、デリバティブ以外の金融資産・金融負債であっても、為替リスクのヘッジの場合にのみ、適格なヘッジ手段とすることができます(IAS39.72)。また、逆説的な表現になりますが、適格なヘッジ対象に対するヘッジ手段でなければ、適格なヘッジ手段とはなりません。このため、適格なヘッジ対象とはならない企業自身の資本性金融商品(適格なヘッジ対象は後述)に対するデリバティブは、たとえヘッジ目的で行っているものであっても適格なヘッジ手段とはなり得ません(IAS39.AG97)。

 

(A) 売建オプションの取扱い


 

 企業が売り建てているオプション(written option)に係る潜在的損失は、関連するヘッジ対象の価値における潜在的利得よりも著しく大きくなる可能性があります。すなわち、売建オプションはヘッジ対象の純損益エクスポージャーを減少させるのには有効ではありません。したがって、売建オプションは、買建オプション(他の金融商品に組み込まれているものを含む)に対する相殺として指定される場合(例えば、任意償還可能な負債のヘッジに使用される売建コール・オプション)を除き、ヘッジ手段として適格ではありません。これに対し、買建オプション(purchased option)は損失以上の潜在的利得を有しており、公正価値又はキャッシュ・フローの変動から生じる損益エクスポージャーを減少させる可能性を有するので、ヘッジ手段になり得ます(IAS39.AG94)。

 

(B) ヘッジの連結上の取扱いと個別上の取扱い


 ヘッジ会計の目的上、報告事業体の外部(すなわち、報告の対象となるグループ又は個々の企業の外)の当事者を相手方とするデリバティブのみが、ヘッジ手段として指定できます。

 連結グループ内の個々の企業又は企業内の部門は、グループ内の他の企業又は企業内の他の部門とヘッジ取引を行うこともありますが、このような内部取引は連結上は消去されます。したがって、こうしたヘッジ取引は、グループの連結財務諸表においてはヘッジ会計の要件を満たしません。しかし、グループ内の個々の企業の単独又は個別財務諸表においては、それが報告対象となっている個々の企業の外の取引である限り、ヘッジ会計の要件を満たすことがあります(IAS39.73)。

 

(C) ヘッジの一部指定の取扱い


 通常、ヘッジ手段については、その全体について単一の公正価値の測定値があり、公正価値の変動を生じさせる要因は相互依存関係にあります。したがって、ヘッジ関係は、ヘッジ手段全体について指定されます。

 ただし、次のものは例外的に一部をヘッジ手段として指定することが認められています。

 

(i) オプションの本源的価値と時間的価値

 

オプションの本源的価値と時間的価値とを区分して、オプションの本源的価値の変動のみをヘッジ手段として指定し、その時間的価値の変動を除外すること(IAS39.74(a))。

 

(ii) 先物契約における金利要素

先渡契約の金利要素と直物価格とを区分すること(IAS39.74(b))。

 

(iii) 比例部分の適用

 

 想定元本の50%というように、ヘッジ手段全体の比例部分をヘッジ関係におけるヘッジ手段として指定することもできます。しかし、ヘッジ手段の存続期間の一部分のみについてヘッジ関係を指定することはできません(IAS39.75)。

 

(D) 単一のヘッジ手段による複数の種類のリスクヘッジ指定 


 (i)ヘッジされるリスクが明確に識別でき、(ii)ヘッジの有効性が証明でき、かつ、(iii)ヘッジ手段と別々のリスク・ポジションの具体的な指定が存在することを確保できることにより、単一のヘッジ手段を複数の種類のリスクのヘッジに指定することができます(IAS39.76)。

 

(E) 複数のヘッジ手段を共同でヘッジ手段に指定する場合


 複数のデリバティブ等(又はそれらの比例部分)を組み合わせで、共同でヘッジ手段に指定することが認められています一部のデリバティブから生じるリスクが他のものから生じるリスクを相殺する場合であっても問題ありません。

 ただし、売建オプションと買建オプションとを組み合わせた金利カラーその他のデリバティブや金融商品(又はそれらの比例部分)は、売建オプションとなっていたり、実質的に正味の売建オプションである(正味のプレミアムを受け取る)場合には、ヘッジ手段としての要件を満たしません(IAS39.77)。

 

4−4.適格なヘッジ対象

 上項でみたとおり、ヘッジ手段が「適格である」と同時に、ヘッジ対象も「適格」でなければなりません。適格なヘッジ対象は、以下のとおりです(IAS39.78)。

・認識されている資産若しくは負債

・未認識の確定約定

・可能性が非常に高い予定取引

・在外営業活動体に対する純投資

⇒これらの単一もしくはグループ

 なお、金利リスクのポートフォリオ・ヘッジの場合には、ヘッジされるリスクを共有している金融資産又は金融負債のポートフォリオの一部となります。

 

(A) 連結グループ内取引のヘッジ対象指定


 ヘッジ会計の目的上、企業の外部の関係者を相手方とする資産、負債、確定約定又は可能性が非常に高い予定取引のみが、ヘッジ対象に指定できます。したがって、同じグループ内の企業の間の取引については、それらの企業の個別財務諸表でのみヘッジ会計が適用でき、グループの連結財務諸表ではヘッジ会計は適用できません。ここでいう「企業」とは、親会社、子会社、関連会社、ジョイント・ベンチャー又は支店を意味します。

 例外として、内部の貨幣性項目(例えば、2つの子会社の間の債権債務)の為替リスクが、IAS第21号「外国為替レートの変動の影響」に従い、連結上完全に消去されない為替差損益に対するエクスポージャーを生じさせる場合には、連結財務諸表においてヘッジ対象として適格となります。IAS第21号によれば、内部の貨幣性項目に係る為替差損益は、その内部貨幣性項目が機能通貨の異なる2つのグループ企業の間での取引である場合には、連結上完全には消去されません。

 また、発生する可能性が高いグループ企業間予定取引に係る外国為替リスクは、当該取引が取引の当事者の機能通貨以外の通貨によるものであり、外国為替リスクが連結純損益に影響を及ぼすものである場合には、連結財務諸表においてヘッジ対象として適格(具体的にはキャッシュ・フロー・ヘッジのヘッジ対象)となります。その例としては、次のようなものがあります。

 

[外国為替リスクが連結純損益に影響を及ぼす場合の例]

グループ外の企業に対する在庫のオンワード販売が予定されている、同一グループ内の企業間における予定売買。

製造したグループ企業から事業に供するために使用するグループ企業に向けての有形固定資産の予定販売。グループ間予定取引が購入企業の機能通貨ではない通貨によって行われた場合、購入側が有形固定資産に対して減価償却を行って、このような資産に対して当初認識した金額が変動する可能性があるため

 

 グループ企業間取引による外国為替リスクが連結純損益に影響を及ぼさない場合は、グループ企業間取引はヘッジ対象として適格ではありません。関連する対外取引が存在しない場合の、同一グループ間のロイヤルティ支払、金利の支払又は管理費等があります(IAS39.80、AG99A)。

 

(B) 企業結合における「事業」のヘッジ対象指定


 企業結合において事業を取得する確定約定は、他のリスクでヘッジの対象となるものを具体的に識別して測定することができないため(一般的に「事業リスク」と考える)、為替リスクを除いて、ヘッジ対象にはできません(IAS39.AG98)。親会社による子会社への投資、関連会社への持分法投資についても、これらの投資がヘッジ対象となることはあり得ません。これらの子会社への投資や関連会社への投資は、事業損益を認識する形(つまり事業リスク)で行われているため、公正価値変動を認識するものではあり得ないからです。ただし、在外営業活動体に対する純投資は、事業リスクではなく為替エクスポージャーに対するヘッジであるため、ヘッジ対象として指定することができます(IAS39.AG99)。

 

(C) ヘッジ対象の一部指定


 企業はヘッジ関係におけるヘッジ対象のキャッシュ・フロー又は公正価値のすべての変動を指定することもできるし、特定の価格又はその他の変数の上方向又は下方向への変動のみ(片側リスク)を指定することもできます

 例えば、予定している商品購入の価格上昇リスクをヘッジするために買建オプションをヘッジ手段として購入したとします。この場合、オプションの行使価格以上に商品価格が上昇した場合に、そのキャッシュ・フロー損失部分が、オプションの本源的価値部分によってヘッジされることになります。すなわち、買建オプションであるヘッジ手段(指定されたリスクと主要な契約条件が同じと仮定する)の本源的価値は、ヘッジ対象の片側リスクを反映しますが、時間的価値はそうではありません。時間的価値は純損益に影響する予定取引の構成部分ではありません(IAS39.AG99BA)。

 

4−5.金融商品項目のヘッジ対象としての指定

 ヘッジ対象が金融資産又は金融負債である場合有効性の測定が可能であれば、そのキャッシュ・フロー又は公正価値の一部分(1つ以上の選択された契約上のキャッシュ・フローもしくはその一部分又は公正価値の一定割合など)のみに関連するリスクについてヘッジ対象として指定することができます(IAS39.81)。

 

(A) ヘッジ対象として指定される部分の特徴


金融資産又は金融負債のキャッシュ・フローの一部分をヘッジ対象に指定する場合、その指定される部分は当該資産又は負債の全体のキャッシュ・フローよりも小さくなければなりません。例えば、LIBOR−αの利付債の場合、元本+LIBORの部分と負の残余部分の指定はできません。元本+LIBORの部分は、LIBOR−αの利付債の全体のキャッシュ・フローよりも大きいからです(IAS39.AG99C)。

 

(B) 細分化されたリスク及び部分へのヘッジ対象指定


  固定金利の金融商品が当初の発生から多少の期間を経た後にヘッジされ、その間に金利が変動している場合には、企業は、当該項目に対して支払われる契約金利よりも高いベンチマーク金利に等しい部分を指定することができます。ベンチマーク金利が、企業が当該金融商品を最初にヘッジ対象に指定した日に購入したものと仮定して計算した実効金利よりも低ければ、そのようにできます。例えば、LIBORが4%である時に、実効金利6%の固定金利の金融資産CU100を企業が創出したと仮定します。その企業は、多少の期間を経た後に当該資産のヘッジを開始し、その時にはLIBORは8%に上昇しており、当該資産の公正価値はCU90に下落していたとします。当該企業は、当該資産を最初にヘッジ対象に指定した日に購入していたとすれば、実効利回りは9.5%だったであろうと計算しています。LIBORが実効利回りよりも低いため、企業は、契約上の金利キャッシュ・フローの一部と、現在の公正価値(CU90)と満期時の返済額(CU100)との差額の一部とから構成される8%のLIBOR部分を指定することができるのです(IAS39.AG99D)。

 

(C) キャッシュ・フロー変動の部分指定


 IAS第39号では、金融商品の公正価値変動又はキャッシュ・フローの変動可能性の全体以外のものを企業が指定することを認めています(IAS39.AG99E)。例えば、

  • 金融商品のキャッシュ・フローの全部を、一部の(しかし、全部ではない)リスクに起因する、キャッシュ・フロー又は公正価値の変動について指定することができる。
  • 金融商品のキャッシュ・フローの一部(しかし、全部ではない)を、リスクの全部または一部のみに起因するキャッシュ・フロー又は公正価値の変動について指定することができる(すなわち、金融商品のキャッシュ・フローの「部分」を、リスクの全部又は一部のみに起因する変動について指定することができる)。

 

(D) 有効性の測定が可能であるとは


 ヘッジ会計に適格となるためには、指定されたリスク及び部分は金融商品の独立して識別可能な構成部分でなければならず、指定されたリスク及び部分の変動により生じる金融商品全体のキャッシュ・フロー又は公正価値の変動は、信頼性をもって測定可能でなければなりません(IAS39.AG99F)。例えば、

(a) リスクフリー金利又はベンチマーク金利の変動に起因する公正価値変動についてヘッジされている固定金利の金融商品については、リスクフリー金利又はベンチマーク金利は通常、金融商品の独立して識別可能な構成部分であるとともに、信頼性をもって測定可能であるとみなされる。
(b) インフレーションは、独立して識別可能で信頼性をもって測定可能であるとはいえず、下記(c)の規定を満たす場合を除いて、金融商品のリスク又は部分として指定することはできない。
(c) 認識されているインフレーション連動債券(組込デリバティブを区分して会計処理する要求はないものと仮定する)のキャッシュ・フローの契約上特定されているインフレーション部分は、当該金融商品の他のキャッシュ・フローがインフレーション部分に影響されない限り、独立して識別可能で信頼性をもって測定可能である。

 

4−6.非金融商品項目のヘッジ対象としての指定

 ヘッジ対象が非金融資産又は非金融負債である場合には、ヘッジ対象としての指定は、全体をヘッジ対象とするか、為替リスク部分についてのみヘッジ対象とするかのどちらかです。上項のような金融商品とは異なり、為替リスク以外の特定のリスクに起因するキャッシュ・フロー又は公正価値の変動部分を分離・測定することが困難だからです(IAS39.82)。

 なお、ヘッジ対象とヘッジ手段の条件に相違があるとしても、IFRSの要求するヘッジ関係が存在するならば(ヘッジの有効性等)、当該ヘッジ対象は適格となります。IAS第39号では、ヘッジ対象に「ブラジル産コーヒーの取引」とヘッジ手段に「コロンビア産コーヒーの取引」を指定した場合でも、有効な統計的相関関係がある場合には、有効なヘッジ関係が設定できることを述べています。ただし、そのヘッジ関係は、ヘッジ関係の期間中に純損益に認識される非有効部分を生じさせる可能性もあると考えられます(IAS39.AG100)。

 

4−7.項目グループのヘッジ対象としての指定

 「項目グループへのヘッジ対象としての指定」とは、日本基準でいうところ、包括ヘッジの規定です。ヘッジ会計は、特定のヘッジ対象のヘッジではない、純額ポジション全体(例えば、満期が類似したすべての固定金利資産及び固定金利負債の純額)のヘッジは、ヘッジ会計の要件を満たしません。しかし、この「項目グループへのヘッジ対象としての指定」を利用することで、結果として純額ポジションに対するヘッジを行うことができます(IAS39.AG101)。

 

 類似の資産又は類似の負債は、そのグループ中の個々の資産及び個々の負債が、ヘッジされるものとして指定されているリスク・エクスポージャーを共有している場合にのみ、合算してグループとしてヘッジ対象としなければなりません。ただし、そのグループの中の個々の項目についての、ヘッジされているリスクに起因する公正価値の変動は、その項目のグループのヘッジされているリスクに起因する公正価値の全体の変動におおむね比例すると見込まれている必要があります(IAS39.83)。

 

 なお、企業は、ヘッジの有効性の評価を、ヘッジ手段(又は類似のヘッジ手段のグループ)とヘッジ対象(又は類似のヘッジ対象のグループ)の公正価値又はキャッシュ・フローの変動を比較することによって行うので、あるヘッジ手段を、特定のヘッジ対象と比較するのではなく、全体的な純額ポジション(例えば、満期が類似しているすべての固定利付資産及び固定利付負債の純額)と比較することは、ヘッジ会計の要件を満たしません(IAS39.84)。

 

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