株式会社インターナレッジ・パートナーズ IKP税理士法人

現金又はその他の金融資産を引き渡す義務

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(平成23年5月16日現在)

2-1.現金又はその他の金融資産を引き渡す義務とは

 金融負債と資本の分類の最初の判断基準となるのは、現金又はその他の金融資産を引き渡す義務の有無です。金融商品の発行体に下記のいずれかの義務が存在すると金融負債として分類されます。 

  • 現金又はその他の金融資産を引き渡す義務
  • 当該発行者にとって潜在的に不利な条件で、他の企業と金融資産又は金融負債を交換する義務

 

 なお、資本性金融商品の保有者は、資本からの配当その他の分配の比例的な取り分を受け取る権利を与えられることもありますが、発行者は、他の当事者に現金又はその他の金融資産を引き渡すことを要求されないので、そのような分配を行う契約上の義務を有していません(IAS32.17)。

 現金又はその他の金融資産を引き渡す義務の有無について検討する際には、次の事項も合わせて検討しなければなりません。

 

 [現金又はその他の金融資産を引き渡す義務の有無について検討]

  • 法的形式ではなく実質により検討する(IAS32.18)
  • 契約上の義務を決済するために現金又はその他の金融資産を引き渡すことを回避できる無条件の権利かどうか(IAS32.19)
  • 現金又はその他の金融資産を引き渡すことを明示的だけでなく、暗示的な定めがあるかどうか(IAS32.20)

 

2-2.実質的な検討(優先株式及び類似の金融商品)

 金融商品の法的形式ではなく実質判断で、企業の財政状態計算書における分類を判定します。法的形式と実質とは通常一致しますが、常にそういうわけではありません。金融商品の中には、資本としての法的形式をとっているが実質は負債であるものもあり、資本に関連する特徴と金融負債に関連する特徴とを併せもつものもあります。例えば、次のようなものです(IAS32.18)。

 

(A) 優先株式(prefernce share)


 優先株式のうち、一定又は決定可能な将来の日において、一定又は決定可能な金額で発行体の強制的償還を定めているものや、特定の日又はそれ以降に一定又は決定可能な金額で当該金融商品を償還することを発行者に要求する権利を保有者に与えているものは、金融負債となります。

 優先株式はさまざまな権利を付けて発行される場合があります。優先株式が金融負債なのか資本性金融商品なのかを判定する際には、発行者は当該株式に付帯している特定の権利を査定して、それが金融負債の基本的性格を示すものであるかどうかを判定します。

 なお、優先株式を資本性金融商品と金融負債のいずれに分類するかは、(a)分配を行った実績、(b)将来において分配を行う意図、(c)配当をしなかった場合に発行体の普通株式の株価に対して考えられる悪影響、(d)発行者の積立金の金額、(e)発行者の純損益の予想、(f)発行者が純損益の額に影響を及ぼす能力の有無といった事項には影響されません(IAS32.AG26)。

 

(i) 特定日の償還又は保有者の選択による償還

例えば、特定の日に償還されるか又は保有者の選択により償還される優先株式は、 発行者が保有者に金融資産を移転する義務を有しているので、金融負債を含んでいます。優先株式の償還が契約により要求される時に、その理由が資金の不足、法令上の制限又は利益若しくは積立金の不足のいずれであるかを問わず、発行者が償還の義務を履行できない可能性があるとしても、その義務が否定されるわけではありません。

 なお、複合金融商品の場合、構成部分をIAS第32号に従って、負債と資本の別々に分類した場合、償還部分は金融負債となるため、発行時における償還時正味現在価値を金融負債に分類します。

 

(ii) 発行者の償還選択権

発行者が当該株式を現金で償還する選択権は、当該株式の償還はもっぱら発行者の自由裁量で、発行者が金融資産を株式保有者に移転する現在の義務がないので、金融負債の定義を満たしません。優先株式の保有者への分配が、累積的か非累積的かを問わず、発行者の自由裁量である場合には、当該株式は資本性金融商品です。しかし、当該株式の発行者がそのオプションを行使する際に、通常、当該株式を償還する意図を株式保有者に正式に通知すると、義務となるため金融負債となります。 

 

(B) プッタブル金融商品(例外的プッタブル金融商品及び例外的清算時償還金融商品を除く)


 現金又はその他の金融資産を対価として発行者に売り戻す権利を保有者に与えている金融商品(プッタブル金融商品(puttable instruments))は、例外的プッタブル金融商品(第16A項及び第16B項)又は例外的清算時償還金融商品(第16C項及び第16D項)に従って資本性金融商品に分類されるものを除き、金融負債となります。現金又はその他の金融資産の金額が、増減の可能性のある指標又はその他の項目を基準にして決定される場合であっても、当該金融商品は金融負債です。

 例えば、オープンエンド型投資信託、ユニット信託、パートナーシップ、及び一部の協同組合は、現金にいつでも換金できる権利を単位投資者又は会員に与えている場合があり、例外的プッタブル金融商品(第16A項及び第16B項)又は例外的清算時償還金融商品(第16C項及び第16D項)に従って資本性金融商品に分類されるものを除き、単位投資者又は会員の持分が金融負債に分類されます。

 ただし、財務諸表の開示では、金融負債に分類されても、株主資本を持たない事業体(一部の投資信託やユニット信託など)の財務諸表で、「投資者が利用可能な純資産価値」や「投資者が利用可能な純資産価値の変動」といった科目名を使用すること、あるいは、会員の持分の合計が、資本の定義を満たす剰余金等の項目と資本の定義を満たさないプッタブル金融商品とで構成されていることを示すことは認められています。

 

2-3.無条件の権利と間接的義務

 資本性金融商品に該当するためには契約上の義務を決済するために現金又はその他の金融資産を引き渡すことを回避できる無条件の権利(unconditional right)を企業が有している必要があります(IAS32.19)。無条件の権利を保有していない場合として、次のような場合が紹介されています。

 

 [無条件の権利を保有していない場合]

  • 企業が義務を履行する能力に対する制約(外貨が利用できないことや、支払について監督当局の承認を擁すること等)
  • 相手方が償還権を行使することを条件とする契約上の義務

 

 また、現金又はその他の金融商品を引き渡す契約上の義務を明示的に定めていない金融商品であっても、契約条件により間接的に義務を設定している場合があります(IAS32.20)。

 

 [間接的に義務を設定している場合の例]

  • 企業が分配を行えなかったり、当該金融商品を償還できなくなったりした場合及び、その場合のみ、決済しなければならない非金融商品の義務を含んでいる場合。
  • 金融商品が、決済時に(i)現金その他の金融資産もしくは(ii)その価値が、当該現金その他の金融資産の価値を実質的に上回るように決定される株数の自己株式を引き渡すことを規定している場合。

 

 2つ目の例は、企業は現金又はその他の金融資産を引き渡す明示的な契約上の義務はありませんが、株式決済の選択肢の価値が、企業が現金で決済するであろうものとなっていて、保有者は少なくとも現金決済選択権と同額の受取りを実質的に保証されている場合になります(IAS32.20後段)。

 

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