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金融負債の認識の中止

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(平成23年5月16日現在)

12-1.法的債務における金融負債の認識の中止

 企業は、金融負債が消滅した時、すなわち、契約中に特定された債務が免責(discharged)、取消し(cancelled)、又は失効(expire)となった時に、かつ、その時にのみ、財政状態計算書から金融負債(又は金融負債の一部)を除去しなければなりません(IFRS9.3.3.1)。

 金融負債(又はその一部分)は、債務者が次のいずれかに該当した場合に消滅します(IFRS9.B3.3.1)。

(a) 債権者に対し、通常、現金、その他の金融資産、財貨あるいはサービスで支払うことより、当該負債を弁済する。
(b) 法的手続き又は債権者のいずれかにより、当該負債(又はその一部)の第一次的責任(primary responsibility)から法的に解放される(債務者が保証を行っても、この条件は依然として満たされる可能性がある。)

 

 負債性商品の発行体が当該金融商品を買い戻す場合、たとえ発行体が当該金融商品の値付業者であるか又は短期間に再売却する意図であるとしても、当該債務は消滅しています(IFRS9.B3.3.2)。

 

 金融負債の認識の中止には、債務者が債権者から法的債務の立場から解放されているかどうかが重要視されています。経済的に同一の条件となるようなことであっても、債務者が債権者から法的免除を受けていれば金融負債の認識の中止が行われ、法定免除を受けていなければ金融負債の認識の中止は行われません。

 以下で、ディフィーザンス契約、第三者への支払い、保証債務の引受のパターンを確認してみましょう。

 

(A) ディフィーザンス契約(defeasance)


 ディフィーザンス契約は社債の償還などで用いられるもので、例えば、企業が社債の元本と利息の支払いのためのキャッシュが償還期限前からすでに得られている場合、それらを社債権者に支払って社債を償還してしまうわけでなく、信託などに当該キャッシュを信託し、償還期限(もしくは計画している償還時期)まで利息と元本の支払いを信託から行ってもらうというものです。ディフィーザンス契約の最大の特徴は、信託された資金は非常に低リスクな資産へ投資されることで運用され、また、企業が当該資金を引き出すことや他の投資に用いることが禁止されている点です。このため、企業から考えれば、ディフィーザンス契約を締結し資金を拠出した時点で、実質的に社債部分を償還しているのと経済的には同一と考えられます。

 しかし、IFRSでは、社債権者(債権者)が企業(債務者)の社債の法的義務を免除したわけではないので、当該社債の認識の中止は認められません。信託を含む第三者への支払は法的な解放がない場合には、それ自体では債務者を債権者に対する第一次的義務から解放するものではないのです(IFRS9.B3.3.3)。

 

(B) 第三者による債務の引き受け


 次に、債務を引き受ける第三者への支払いについて考えてみましょう。債務を引き受ける第三者に対して支払った場合、債務者は当該債務について支払い済みであると考えられます。このため、感覚的に考えれば金融負債の認識は中止されそうです。しかし、債務者が債務を引き受ける第三者に支払を行い、その債務を第三者が引き受けた旨を債権者に通知したとしても、第一義的債務者の立場から解放されない限り、債務者は当該債務について認識の中止はできません。債務者が債務を引き受ける第三者に支払を行い、債権者からの法的な解放を得た場合には、債務者は当該債務を消滅させることができます。しかし、債務者が当該債務に係る支払を第三者に又は原債権者に直接行うことを同意している場合には、債務者は当該第三者に対する新たな債務を認識します(IFRS9.B3.3.4)。

 

(C) 保証債務を引き受ける場合


 場合によっては、債権者は債務者が支払を行う現在の義務から解放するが、第一次的責任を引き受けた当事者が支払不能になれば支払うという保証債務を債務者が引き受けることがあります。このような場合、債務者は次の会計処理を行います(IFRS9.B3.3.7)。

(a) その保証に係る債務の公正価値に基づいて新たな金融負債を認識する。
(b) (i)支払った金額と、(ii)当初の金融負債の帳簿価額から新たな金融負債の公正価値を差し引いた金額との差額に基づいて、利得又は損失を認識する。

 

 第一次的責任が免れることによって債務の解放が行われた場合、既存の金融債務について認識の中止が行われます。一方で、保証債務は新たな金融負債として認識しなければならないため、保証債務を金融負債の当初認識の規定に基づいて、公正価値で測定することになります。

 また、上記(b)のとおり、当該新たな金融負債の部分も含めて損益を認識することになります。

 

 

 上記のように、金融負債の認識の中止は、法的な解放の有無となります。法的な解放は、裁判によるものか債権者によるものかを問わず、負債の認識の中止を生じさせますが、譲渡した金融資産について認識の中止の要件が満たされない場合には、企業は新たな負債を認識することがあります。つまり、譲渡された資産についての認識の中止は行われず、企業は、譲渡した資産に関連する新たな負債を認識します(IFRS9.B3.3.5)。

 

 なお、消滅又は他の当事者に譲渡された金融負債(又は金融負債の一部分)の帳簿価額と、支払われた金額(譲渡された現金以外の資産又は引き受けた負債を含む)との差額は、純損益に認識しなければなりません(IFRS9.3.3.3)。

 また、企業が金融負債の一部分を買い戻す場合、その金融負債の従前の帳簿価額を、引き続き認識される部分と認識の中止を行う部分とに、買戻日におけるそれらの部分の公正価値の比率に基づいて、配分します。

 認識の中止を行う部分に配分された帳簿価額と、認識の中止を行う部分について支払われた対価(譲渡された現金以外の資産又は引き受けた負債を含む)との差額は、純損益に認識します(IFRS9.3.3.4)。

 

12-2.著しく異なる条件による金融負債の認識の中止

 現在の借手と貸手との間での、著しく異なる条件(substantially different terms)による負債性商品の交換は、従前の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識として会計処理しなければなりません。同様に、現存する金融負債又はその一部分の条件の大幅な変更は、(債務者の財政的困難によるものかどうかを問わず)従前の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識として会計処理しなければなりません(IFRS9.3.3.2)。

 新たな条件が大幅に異なるものとされるのは、新たな条件によるキャッシュ・フローの割引現在価値(受取手数料を控除後の支払手数料を含み、当初の実効金利で割り引く)が当初の金融負債の残りのキャッシュ・フローの割引現在価値と少なくとも10%異なる場合です。負債性商品の交換又は条件変更が負債の消滅として会計処理される場合には、発生した費用又は手数料は、すべて消滅による損益の一部として認識されます。交換又は条件変更が負債の消滅として会計処理されない場合には、発生した費用又は手数料は、当該負債の帳簿価額の修正となり、変更後の負債の残存期間にわたって償却されます(IFRS9.B3.3.6)。

 

 

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