HOME > ナレッジ情報 > 公正価値評価(Valuation) > 簿価純資産法と時価純資産法(アセット・アプローチ)

簿価純資産法と時価純資産法(アセット・アプローチ)

(平成23年10月06日現在)

2−1.アセット(コスト)アプローチの全般的な考え方

 アセット(コスト)・アプローチは、評価対象会社の貸借対照表に計上されている資産・負債の差額として算出される純資産額の基礎にして株式評価する方法です。

 アセット・アプローチは、貸借対照表の資産・負債・純資産が出発点となることから、経営者をはじめとする関係者にとって非常にイメージがしやすいメリットがあります。また、会計上の帳簿価額を基礎とするため「数値の客観性」という観点から他の評価方法に比較して利点となります。しかし、帳簿価額と時価が大幅に乖離している場合などは簿価をそのまま利用することができないため、一部の資産・負債について時価へ修正して用いるケースもあります。

 実務的には、相続税の財産評価基本通達における小規模企業の評価方法がアセット・アプローチを採用していることから、中小零細企業の株式評価では多用される結果となっています。また、当事者が納得・理解できる合理的な見積りが困難なことが多いのも、アセット・アプローチが多用される要因と考えられます。

 

 アセット・アプローチには、細かく分類すると次のような方法が挙げられます。

方  法 内     容
簿価純資産法

貸借対照表に計上されている資産・負債に粉飾・誤謬(例えば、減価償却の不足分など)等の修正を加え、資産から負債を控除した純資産額をもって株式評価するものです。

修正簿価純資産法 上記の簿価純資産に一部の資産・負債の含み損益を取り込んで評価する方法です。有価証券や土地などで大きな含み損益が認められるものについて時価の取り込みを行います。
時価純資産法 資産・負債の各項目について時価評価し、時価純資産を算出し株式評価するものです。売上債権の滞留債権や棚卸資産の滞留在庫を評価減したり、退職給付債務や損害賠償等の簿外処理されている可能性のある負債をオンバランスするなどして、時価純資産を算定します。時価純資産法は、個別項目ごとに時価評価し、それらを積み上げて時価純資産を求めます。

2−2.簿価純資産法

 簿価純資産法は、貸借対照表に計上されている資産・負債を出発点にして、そこから粉飾・誤謬(例えば、減価償却の不足分など)がある場合に修正を加え、(修正された)適切な簿価をもって純資産額を評価する方法です。簿価純資産法は、中小零細企業を評価する場合に多用される評価方法です。新株発行や株式売買が頻繁に行われない中小零細企業の当事者にとってマーケット・アプローチやインカム・アプローチによる評価方法は理解・納得することが難しく、貸借対照表の純資産額を基礎とするアセット・アプローチが選好されやすいと推察されます。また、アセット・アプローチの中でも簿価純資産が採用されやすいのは、時価修正のためのコスト(例えば、不動産を不動産鑑定士に鑑定してもらうための費用等)をかけるのが難しいことや、そもそも簿価・時価にそれほど大きなかい離が発生しない(保有資産がほとんどない。もしくは時価のない機械等しか保有していない)ことが要因と考えられます。

 

 ただし、中小零細企業では、銀行借入などの関係から減価償却費などで粉飾することも散見されるので、財務・税務のデューデリジェンスを実施し、適切な簿価へ修正する必要はあります。また、回収可能性のない売上債権や棚卸資産の長期滞留在庫についても考慮するのが一般的です。上場企業等の企業会計で考えれば、貸倒引当金の計上や棚卸資産の評価損計上といった手当がなされていますが、企業会計基準に縛られない中小企業では、税務上の損金計上要件が厳しいことや資金調達の関係から黒字計上を望む等の理由により、長期滞留債権・長期滞留在庫が簿価のままで計上されているケースが非常に多くあります。

 このため、小規模で単純な資産構成のためそれほどデューデリジェンス費用はかからないと考えられるので、中小零細企業であっても財務・税務のデューデリジェンスを適切に実施し、「適切な簿価」を算定することが実務上重要であると考えられます。

2−3.時価純資産法と修正簿価純資産法

 上項の簿価純資産法では、貸借対照表に計上されている資産・負債の簿価をもって純資産額を計算する方法であるのに対し、資産・負債の時価を求めて純資産額を計算するのが、時価純資産法と修正簿価純資産法です。

 時価純資産法と修正簿価純資産法の違いは、時価評価する資産・負債の範囲の違いです。時価純資産法が全資産・負債の時価を求めて純資産額を計算するのに対し、修正簿価純資産法では有価証券や土地・建物などで一部含み損益の影響が大きく、時価が入手しやすい項目のみ時価修正する方法です。後述しますが、実務的に時価純資産法を修正簿価純資産法と同一視するケースもあり、時価純資産法と修正簿価純資産法をあまり区別して考える必要はないように思われます

 

(1)修正簿価純資産法


  修正簿価純資産法は、有価証券や土地・建物などで含み損益が大きく、かつ、時価が入手しやすい項目のみ時価修正する方法です。

項  目 内  容
有価証券

上場株式などの市場から時価が入手しやすいものは時価評価します。

非上場株式など時価が入手しづらい株式であっても、当該企業の計算書類等が入手できる場合には、入手できた貸借対照表を用いて簿価純資産法や修正簿価純資産法を適用して時価評価することが考えられます。特に、中小企業の場合には債務超過状態もしくは休眠状態の子会社株式を保有していることも多く、これらの株式に対して適切な修正を行う必要があります。

土地・建物

土地・建物などで多額の含み損益(通常は、含み損が多い)を含んでいる場合、時価評価します。

土地・建物については、不動産鑑定士の鑑定評価書を入手する場合だけでなく、コストをあまりかけられない場合には公示価格、路線価や固定資産税評価額をもって時価とみなす場合もあります。特に、税務リスクを抑えるだけが主目的であるような株式評価の場合には相続税財産評価をベースとした方法が用いられることが多いため、路線価や固定資産税評価額を用いることも多いです。

場合によっては、不動産評価における再取得原価法、収益還元法、売買事例評価法等の不動産評価技法を用いて独自で行うことも考えられますが、不動産の評価方法に精通していない場合には路線価等の方法を用いる方が一般的だと考えられます。

 


(2)時価純資産法


 時価純資産法は、貸借対照表の資産・負債の全項目について時価評価し、また、計上されていない無形資産についても時価評価することでオンバランス化させ、それをもって算定された純資産額で株式評価する方法です。

 ただし、無形資産の時価評価は非常にテクニカルで、その評価が困難であることから、結果としてオンバランスさせないことも実務的には多くあります。このため、無形資産を認識・評価しない時価純資産法を通常の時価純資産法と区別して「修正簿価純資産法」と呼ぶケースもあります。実務的に、評価方法の名称に拘る必要はないため、あまり意識する必要はありません。

項  目 内  容

売上債権・貸付金等

回収可能性金額をDCF法等によって時価評価します。金融機関などの場合には、マーケット指標を用いながら『債券のバリュエーションシリーズ』で解説したようなイールドカーブ等を用いて公正価値評価を行います。

コストをあまりかけられない場合には、金融商品会計基準に従って、一般債権、破綻懸念債権、破綻債権に分類し、それぞれについての貸借対照表価額の算定方法を用いて時価評価する場合も考えられます。また、例えば、すべての破綻懸念債権についてキャッシュ・フロー見積法を用いるとコストがかかるため、重要な債権のみキャッシュ・フロー見積法を用いて、それ以外は財務内容評価法を用いるといった折衷法も考えられます。

有価証券

修正簿価純資産法と同様です。

土地・建物

修正簿価純資産法と同様です。

前払費用など

前払費用などは簿価をそのまま用います。ただし、すでに便益を受けてないような前払費用がある場合にはゼロ評価することになります。

棚卸資産

再取得原価もしくは正味実現可能価額によって時価評価します。時価評価が難しい場合には簿価を用いる場合もあります。

時価の評価方法が何であっても、滞留在庫についてチェックを行い、滞留在庫についてはゼロ評価もしくは処分費用がかかる場合には在庫処分債務を追加で負債計上する必要があります。

機械装置

再調達原価(再製作原価)から、物理的・機能的減価を差し引く方法で評価します。ただし、実務的には機械装置を評価することは難しく、簿価をそのまま用いることが多いと思われます。ただ、明らかに機能的劣化(旧式)がある場合には十分に減額評価することも想定されます。また、工場の閉鎖などを予定している場合には、除去債務を負債として認識しなければなりません。

ソフトウェア

ソフトウェアは機械装置と基本的に同様に考えることができます。

のれん(営業権)

のれんは、減損テスト等を実施し、十分な評価減を行う必要があります。また、計上されていないのれん等については、無形資産の評価を行いオンバランスさせます。無形資産の評価方法については、別シリーズにて詳しく解説します。

のれん等の無形資産の評価が難しい場合には、評価自体を行わないケースも考えられます。

金融負債

借入金や社債などは債券評価方法などを利用して時価評価を行います。金利変動があまりなく時価・簿価に評価差異がなければ簿価をそのまま用いることも実務的には多くあります。

退職給付債務

退職給付債務の積立不足や未償却の数理計算上の差異なども含めて退職給付債務を計算します。退職給付債務の計算は、年金数理人(アクチュアリ)などの専門家による計算が必要になるケースが多いと思われます。

特に非上場企業等の場合には、退職給付会計が適用されていないケースが多いため、十分な退職給付引当金が計上されていない可能性が多分にあります。特に、従業員を多く抱える企業における株式評価等では、退職金規定等の精査も含め十分な検討が必要になります。

偶発債務

係争事件や環境問題(工場跡地の土壌汚染など)などで負債計上すべき点があるかどうかを評価し、必要あれば引当金として計上します。

 

2−4.アセット・アプローチのまとめ

 簿価純資産法、修正簿価純資産法、時価純資産法のいずれを利用するかは、それぞれの評価目的とコストに合わせて選択することになります。例えば、適格組織再編であれば、移転資産・負債を時価で評価する必要はないため、簿価純資産法的な考えで企業価値を評価すればよく、一方でM&A取引のように外部との取引であれば、取引時点での企業価値にスポットが当たることから、簿価純資産法を利用するケースはほとんどなく、時価純資産法ないし修正簿価純資産法が採用されることになると考えられます。

 修正簿価純資産法と時価純資産法の選択は、評価目的と時価評価のためのコスト(時間的制約、費用的制約)によって決定され、また、オンバランス化されていない無形資産の取込みについては評価技法の技術的・時間的な制約から株式評価時には織り込まないこともあります。ただ、上場企業の場合、企業結合会計において、PPA(Purchase Price Allocation)を実施しなければならないため、株式評価時(M&A検討時)には評価しないとしても、会計処理的な見地から無形資産の評価は必須となります。

 

 アセット・アプローチは、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなどの他の評価技法と比較した場合、大企業のM&A等ではあまり採用されません。(どちらかといえば、)企業価値というのは「将来どのくらいのキャッシュを生みだすのか」というキャッシュフロー概念を出発点とするものであり、アセット・アプローチは概念的にズレが生じていると言わざるを得ません。ただし、社歴も長くない成長企業などを評価する場合に、将来のキャッシュフローを見積もることは非常に難しく、対象企業が非上場企業であるM&A等においては時価純資産法や修正簿価純資産法を評価方法に採用するケースも実務的には多く見られます。

 

 繰り返しになりますが、どの評価方法を採用するかは、評価目的とコストを勘案して決定することです。評価依頼主と評価会社との間で十分に議論し、決定する必要があります。

 

【まとめ】

  • アセット・アプローチは評価対象会社の当事者の納得・理解を得やすい評価方法である。
  • 評価方法の決定は、評価目的とコストを勘案して決定する。
  • 時価を求める項目の範囲は、時間的・費用的な制約の中で最適な範囲を求める。
  • オンバランスされていない無形資産は株式評価時には考慮しないとしても、企業結合後に上場企業であれば企業結合会計のPPAの規定に対応する必要がある。
  • 大企業のM&A等ではインカム・アプローチやマーケット・アプローチが一般的であるが、非上場企業でキャッシュの見積りが難しい企業(例えば社歴が短い企業)の場合は、アセット・アプローチを採用することも一般的である。

前へ  次へ

 

 

 

 

このページの先頭へ戻る