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ストック・オプションの取得者(個人)の税務 −税制非適格−

1.ストック・オプション税制総論

前回までのシリーズで、新株予約権の譲渡についての制限その他特別の条件が付されおり、かつ、引き受ける者に特に有利な条件もしくは金額で発行されたもの、もしくは、役務の提供その他の行為による対価の全部もしくは一部として新株予約権を”個人”が取得した場合、所得税法施行令第84条の規定ににより、新株予約権の取得時においては、課税を受けず、権利行使時において”権利行使により取得した株式の行使日における価額(=株式の時価)”と”当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額(=行使価額)を加算した金額”の差額に課税がなされると解説しました。

 

これが、ストック・オプション税制の原則課税関係になりますが、本シリーズからはストック・オプション税制についてさらに詳細な論点にはいっていきます。

 

ストック・オプション税制(取得者側)の主要テーマは、原則課税(税制非適格ストック・オプション)と税制適格ストック・オプションになります。

 

ちなみに、ストック・オプションというと税制適格ストック・オプションがベストな設計パターンを思われがちです。しかし、税制適格ストック・オプションは与対象者(経営者・従業員など)の報酬にかかる所得税法上の論点です。そのため、あくまで法務・会計・税務・バリュエーションの中の税務というテーマの一つであり、しかも税務上でも主として付与対象者サイドの論点のため、税制適格ストック・オプションの議論だけではストック・オプションのほんの一側面しか捉えられないということがよくわかると思います。

 

しかし、ストック・オプションを設計するに当たって重要な論点であることには変わりませんので、きちん理解する必要があります。

2.原則的な課税関係(税制非適格ストック・オプション)

まずは、所得税法施行令第84条に基づく原則的な課税関係についてです。

税制適格ストック・オプションは原則的な課税関係の特例として位置します。そのため、税制適格要件を満たさない原則的なストック・オプション(税制非適格ストック・オプション)の課税関係をまずは理解する必要があります。

 

ここでの議論は、課税時期(いつのタイミングで課税されるのか)課税される所得の種類(何の所得として課税されるのか)です。

前回までのシリーズで、課税時期については解説済みなので繰り返しになる点もありますが、ストック・オプション税制としてもう一度整理します。

 

<原則的な課税関係(税制非適格ストック・オプション)>

■ストック・オプション取得時

課税なし

■権利行使時

課税あり(給与所得課税等)

■株式譲渡時

課税あり(譲渡所得課税)

 

ポイントは、@ ストック・オプション取得時に課税されない点A 権利行使時に給与所得等として課税される点 です。

 

@ ストック・オプション取得時には課税されていない

 

ストック・オプション付与対象者は、ストック・オプションというコール・オプションを報酬として得ているわけですから、本体であれば、この経済的利益に対して課税されるのが自然な考え方です。しかし、ストック・オプションは通常、譲渡制限条項が付されていたり、また、付与後すぐに権利行使できるわけではなく「××年経過後●●年間だけ権利行使できる」と条件が付されているため、付与されたとしてもすぐには経済的利益を実現できるとは限りません。

また、取得時点の経済的利益に対して課税される法人とは異なり、個人がストック・オプションの取得時点においてストック・オプションのの時価相当額を測定するのは、実務上困難であるためと考えられます。

そこで、ストック・オプションを取得しても、取得時点においては課税は受けません。

 

A 権利行使時に給与所得等として課税される

 

税制非適格ストック・オプションは、権利行使時にそのときの経済的利益について課税されます。そして、その経済的利益の所得区分はストック・オプションが労働の対価として付与されるもののため、”給与所得等”になります。

「等」は例えば、退職金としてストック・オプションを付与された場合は退職所得として区分されることになるなど、労働の対価であっても、給与所得とは限らないため「給与所得等」と表現しています。

詳細は、下記所得税基本通達を参考にしてみてください。

 

【所得税基本通達】

(株式等を取得する権利を与えられた場合の所得区分)

23〜35共−6 発行法人から令第84条各号《株式等を取得する権利の価額》に掲げる権利を与えられた場合(同条の規定の適用を受ける場合に限る。以下23〜35共−6の2において同じ。)の当該権利の行使による株式 (これに準ずるものを含む。 以下23〜35共−9までにおいて同じ。)の取得に係る所得区分は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。(昭49直所2−23、平8課法8−2、課所4−5、平10課法8−2、課所4−5、平14課個2-5、課資3-3、課法8-3、課審3-118、平18課個2−18、課資3−10、課審4−114改正)

 (1) 令第84条第1号又は第2号に掲げる権利を与えられた取締役又は使用人がこれを行使した場合  給与所得とする。ただし、退職後に当該権利の行使が行われた場合において、例えば、権利付与後短期間のうちに退職を予定している者に付与され、かつ、退職後長期間にわたって生じた株式の値上り益に相当するものが主として供与されているなど、主として職務の遂行に関連を有しない利益が供与されていると認められるときは、雑所得とする。

 (2) 令第84条第3号又は第4号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合  発行法人と当該権利を与えられた者との関係等に応じ、それぞれ次による。 

イ 発行法人と権利を与えられた者との間の雇用契約又はこれに類する関係に基因して当該権利が与えられたと認められるとき(1)の取扱いに準ずる。

(注) 例えば、措置法第29条の2第1項((特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等))に規定する「取締役等」の関係については、雇用契約又はこれに類する関係に該当することに留意する。 

ロ 権利を与えられた者の営む業務に関連して当該権利が与えられたと認められるとき  事業所得又は雑所得とする。 

ハ イ及びロ以外のとき  原則として雑所得とする。

 (3) 令第84条第5号に掲げる権利を与えられた者がこれを行使した場合  一時所得とする。 ただし、当該発行法人の役員又は使用人に対しその地位又は職務等に関連して株式を取得する権利が与えられたと認められるときは給与所得とし、これらの者の退職に基因して当該株式を取得する権利が与えられたと認められるときは退職所得とする。 

(注) (1)及び(2)の取扱いは、発行法人が外国法人である場合においても同様であることに留意する。

3.原則的な課税関係(税制非適格ストック・オプション) −具体例−

 具体例をみてみます。

 

付与時株価および権利行使価格1,000円のストック・オプションを100株取得し、その2年後、株価が2,000円になったため権利行使を実施し、1,000円で100株の株式を購入した。その後、株価が2,500円になったとき株式を売却した場合の、取得者(個人)の課税関係は下記のとおりとなります

ストック・オプションは、所得税法施行令第84条にもとづく原則的な課税関係(税制非適格ストック・オプション)とします。

 

■ストック・オプション取得時

課税なし

■権利行使時

100,000円が給与所得として課税

(権利行使時株価2,000円−権利行使価格1,000円)×100株=100,000円

■株式譲渡時

50,000円が譲渡所得として課税

(売却価格2,500円−権利行使時株価2,000円)×100株=50,000円

 

ここでさらに注目なのは、権利行使時に課税されるという点です。

 

株式譲渡時に課税される税金(上記でいう譲渡所得)は株式の売却代金を受け取っているので難なく払えることが容易に想像できます。

 

しかし、権利行使時は確かに100,000円の経済的利益が生じていますが、あくまでそれは含み益であり、経済的利益の裏付けのキャッシュはま未だ実現していません。

 

このため、”キャッシュインなき課税”とよばれ、税制非適格ストック・オプションが税制適格ストック・オプションに比べ不利になる一つの要因になっています。

 

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