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2013/06/19 国際会計基準に「日本版」、投資家へ普及カギ

今日は、日経1面及び5面の日本版IFRSの記事からです。

 

【記事抜粋】


・金融庁と企業会計基準委員会は国際会計基準(IFRS)に準じた日本版IFRSの骨格をまとめる。

・欧州アジアで幅広く通用するIFRSに近い会計基準を導入し、海外から日本企業への投資を呼び込む。

・2015年3月期にも導入する。

・一部に日本独自の会計基準も残す方向で、海外投資家からIFRSと認められるか不透明な面もある。

・4種類の会計基準が併存するため、投資判断などを巡って混乱するとの懸念も一部にある。

<平成25年6月19日 日経朝刊1面、5面 記事要約>


 

 いわゆる、J−IFRS(日本版IFRS)についての議論ですね。

 今日は、IFRSの導入について、少し整理するとともに、日経の記事に掲載されていた、4つの主な相違点について簡単に整理しようと思います。

◆アドプションかエンドースメントか

 IFRSの導入について、常に議論されているのが、アドプション(適用、すなわち全面導入)か、エンドースメント((個々の基準ごとの)承認、すなわち承認しない基準も出てくる)かという議論です。

 実は、大半の国では、IFRSはエンドースメントによって導入されていることが多く、IFRSの主体であるEUにおいても、エンドースメント手続きを経て適用されています。欧州委員会が、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)の助言を経て決定しています。

 エンドースメントを採用した場合には、エンドースメントを通じて除外事項が決定されることもあり、実際に、EUではIAS39号のヘッジ会計の一部をカーブアウトしているのをご存知の方も多いかと思います。

 もちろん、エンドースメントを通じて、全面承認(結果としてのフルアドプション)が達成される可能性もあります。たとえば、韓国では、K−IFRSとしてエンドースメントされたものですが、番号体系等が異なるのみで、IFRSをフルアドプションした基準のようです。 

 企業会計審議会の資料では、エンドースメントしていない例としては、南アフリカとイスラエルがあげられています。

 

 平成25年5月28日の企業会計審議会の資料には、エンドースメントのメリット・デメリットが以下のように記載されています。

 

【メリット】

・我が国が考える「あるべきIFRS」の姿を示すことができ、会計基準の国際的調和を図る際に寄って立つべきところが明確となるのではないか。

・我が国として、どうしても受け入れ難い基準があった場合にカーブアウトを検討できるのではないか。

・IFRSの個別基準に関する受け入れの適否について、会計基準の策定能力を有する者による検討の機会を設けることができるのではないか。また、その際、必要に応じて、IFRSの個別基準を修正して適用することが可能となるのではないか。

・IFRSの導入を検討する企業にとって、導入コストの削減となる可能性が高いのではないか。

 

【デメリット】

・我が国で使用できる会計基準が4つとなることから、制度として複雑であり、財務諸表の比較可能性が低下するのではないか。

・修正項目の数が多ければ多いほど、国際的にはIFRSと認められにくくなり、IFRS策定に対する日本の発信力の確保等へ影響が生じ得るのではないか。

・PureなIFRSと異なるものになれば、米国証券取引委員会に登録している企業の財務諸表において調整表の作成が求められることになるのではないか。

<リソース http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/soukai/20130528.html

 

 それぞれの立場において、もちろん賛成・反対があると思いますが、もっとも懸念されているのは、採用可能な会計基準が4つになることでしょうか。現行において、日本基準、SEC(米国基準)、IFRSの3つの基準が採用されています。

 

 企業分析、財務分析を行う際に基本的な軸となるのは、「期間比較」と「企業間比較」です。

 会計基準の適用において「期間比較」はそれほど問題とならないのに対し、「企業間比較」には大きな影を落とします。

 たとえば、総合商社の場合、平成24年3月期現在では、三菱商事・三井物産・丸紅・伊藤忠商事はSEC基準を採用し、住友商事はIFRSを採用、双日・豊田商事は日本基準を採用していました(なお、平成26年3月期から、三菱商事・三井物産・丸紅はIFRSへ移行予定。伊藤忠商事は平成27年3月期より移行予定。双日も予定時期は未定だが移行予定と報道)。

 これによって、売上高の違いが大きく生じているだけでなく、日本基準では採用されている段階損益がSEC、IFRSでは採用されていない等の違いが生じています。

 段階損益概念が考慮されていない結果、商社では持分法投資損益が損益上に与えるインパクトが大きいものの、日本基準では営業外損益として経常利益に含まれるものの、三菱商事などでは、税引後利益に対して持分法投資損益が取り込まれています。

 このため、特別損益項目を度外視したとしても、経常利益と税引前利益を単純に比較することもできず、企業間比較が困難になる可能性が高まります。

 

 日経の記事にもあったように、投資家側からすると、複数会計基準というのは比較困難性が増すため歓迎されるべきものではありません

 一方で、財務諸表作成者側からすると、アカウンタビリティ(報告義務)を確保しつつも、自社の経営実態を反映した財務諸表を作成することを目的とする以上、経営実態を適切に反映しない会計基準の採用には反対を表明することになるでしょう。特に、後述する「のれんの非償却」「開発費の資産計上」なんかは、製造業系では経営感覚的にもしっくりこない可能性は高いですね。

 なお、審議会の資料にも経団連資料に「財務諸表作成者側の意見が十分に反映されていない面がある」と記述されていました。

◆日本企業とIFRSの主な相違点

 日本基準とIFRS基準は、長年のコンバージェンス作業を通じて、相当な部分で同じ会計処理となりました。

 ただ、無形資産の取り扱いを中心にIFRSへの抵抗感があるのも事実で、日経では主な争点を4つ出しています。

 もちろん、その他にも、金融商品の取り扱い部分については、リサイクリングや非上場株の時価評価以外にも多くの議論が行われており、先述のEUのヘッジ会計のカーブアウトをはじめ、全面受け入れが難しいものも多くあります。

 

 すべての焦点について議論することはできないので、日経の4つの論点について簡単に確認していこうと思います。また、考えの助けとして、筆者個人の見解について若干ですが記載しておきます。

 

 

@ 保有株式などの売却益を利益計上するか(リサイクリング)

 いわゆる「その他有価証券」については、IFRSも日本基準も時価評価を行い、評価損益については、基本的には、評価差額金として包括利益に計上されます。

 一方で、売買したときに発生する実現損益については、日本基準は、損益計算書上で「当期純利益」に計上され、貸借対照表の利益剰余金に流れるのに対し、IFRSでは、売買損益の損益計算書上の計上は認められず、純資産の中で振替られるにすぎません。

 IFRSでは、「包括利益」という利益に計上されたものを、次は「当期純利益」という別の利益に「リサイクル(再利用)」することを禁じているのです。

 実務的な慣行として当期純利益を利益指標の中心におくことを考えると、実現損益について当期純利益を通らないものがあるのに違和感があるのは理解できます。ただ、利益概念を「包括利益」を中心に置き換えたとしたら、当期純利益は包括利益に内包される利益概念であるため、リサイクルされることは理論的にも認められないと思われます。

 筆者個人としては、J−IFRSが導入されるとしても、これについて特別な扱いにする必要はないように考えます。

 

 

A 非上場株の時価評価

 日本基準でも、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」について、社債その他の債券以外の有価証券は、「取得価額をもって貸借対照表価額とする」となっており、株式の場合さらに「市場価格に基づく価額が存在する場合のみ時価のある有価証券」とし、非上場株は、時価のない有価証券として取得価額を採用することが明記されています(金融商品実務指針63項但書)。

 一方で、IFRSでは、上場・非上場の区別はなく(もっというと株式、債券、債権等の区別も関係なく、)、「償却原価で測定される金融資産」に該当しない場合には、公正価値測定が義務付けられています。公正価値測定の結果として取得価額が選択されることもあり得るとは思いますが、その採用は非常に限定的と言えるでしょう。

 この結果、非上場株についても公正価値測定が求められ、評価コストがかかる可能性はあります。ただ、金融機関を除けば、子会社・関連会社でもない非上場株を保有するケースは少なくなっているでしょうし、財務諸表に与えるインパクトがそこまで大きいとも限りません。貸借対照表価額の算定のための評価であれば、複雑な評価アプローチを採用しなければいけないケースは少ないでしょう。たとえば、単純なアセットアプローチを採用する等でクリアできるようにも思えます(もちろん、ケースバイケースでしょう)。

 一方で、金融機関については作業も含めて非常に大変になろうかと思います。保有銘柄も製造業とは比較になりませんからね。

 

 

B のれん代(買収価格と純資産の差額)の定期償却

 IFRSと日本基準のギャップについて、特に製造業系の方と議論すると出てくるのが、無形資産についての取り扱いです。特に、この「のれん」と次の「開発費」については、業績にも与えるインパクトも大きく無視できないものになっています。

 日本基準では、のれんは一定期間で償却するのに対し、IFRSでは非償却です。減損事由に該当した場合にのみ減損を実施し、減損部分が費用計上されることになります。

 このため、IFRSの場合、減損損失により多額の費用が計上されることになり、業績の安定性が損なわれる可能性があるのです。また、工場・機械といった固定資産を取得し、それを使用・(ある意味での安定した)償却をしていく中で利益を生み出していくビジネスモデルにおいて、(買収という形で結果として、)「のれん」に計上されてしまった固定資産だと償却はしないでいい、、というのは何とも実態にそぐわないようにも思えます。

 筆者個人は、のれんについては定期償却のほうがしっくりきます。通常の固定資産も含めて、どの程度の経済的価値を失っているのか不明なため、ある種機械的にでも減価償却プロセスを通じて費用計上されるべきもので、たとえ、それが「のれん」というものであっても、定期償却し、減損処理にて足りない部分を補てんする方法がいいのではないかと思います。

 

 

C 開発費の資産計上

 無形資産のもう1つの論点が開発費の資産計上です。

 日本基準では、研究開発費については一括で費用計上されているのに対し、IFRSでは、「研究」と「開発」に分け、開発局面において一定の要件を満たしたものは資産計上しなければならないとされています(IAS38.57)。

 会計理論的に考えれば、開発費についても「投資」である以上、資産性の有するものについては資産計上されるべきものであり、実際にIFRSでは一定の要件を満たした開発費について資産計上を強制しています。

 ただ、実際のところ開発費の資産計上基準は各社の会計方針に左右され(IFRSの原則主義)、多額の研究開発費を投じる製造業系においては開発費の取り扱いによって業績に大きな影響を与えてしまう可能性があり、企業間比較がむしろ害されるのではないかという懸念が生じているのも事実です。

 筆者個人は、開発費については資産計上の要件について、もっと詳細なガイダンスを提供するか、もしくは原則主義としてそれが難しいのであれば一括費用計上でよいと考えます。やはり、業績のインパクトが大きい事項なだけに原則主義を貫きすぎるに比較可能性が害されるように思えます。

 なお、資産計上の一定の要件については、弊社の下記のナレッジ情報を参照ください。

 

【参考】IAS第38号「無形資産」(認識・当初の測定 4/4)

 

 J−IFRSへ賛否両論あろうかと思いますが、流れとしてはエンドースメントの流れになりそうですね。

 筆者個人としては、IFRSをアドプションして、日本基準の良いところをもっと主張していくことで、IFRSそものもに影響力を与えるのがベストだと思います。おそらく、関係者の皆様も同じような思いだとは思いますが、IFRSへ影響力を強めていくことにはやはりナカナカ難しいところはあるのでしょうか。

 ただ、それでも、主要論点についてあまりにも除外項目・修正項目がありすぎると名ばかりIFRSになってしまうので、ここは死守してほしいですね。

以  上

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